小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

プシュケの涙  柴村仁 著

あらすじ

”夏休み、補習中の教室の窓の外を女子生徒が落下していった。自殺として少女の死がひそかに葬られようとしていたとき、目撃者の男子たちに真相を問い詰めたのは少女と同じ美術部の男子・由良だった。絵を描きかけのまま彼女が死ぬはずがない。平凡な高校生たちの日常が非日常に変わる瞬間を描く青春ミステリ。”

 

The First Line

”暑さ厳しい七月終わりのことだった。”

 

 柴村仁著『プシュケの涙』を読みました。

 

 

久しぶりにヒット作に出会えた感覚。すごく面白い小説やった。

高校の夏問い詰めたのはいう眩しすぎる舞台に、暗すぎる自殺。その一件を取り巻いて、高校生独特の複雑な心境がシンクロしていて、これでもかというぐらいに陰を生んでいる。そのコントラストが鮮やかすぎて、きれい。

この小説は、前半に自殺の一件が描かれていて、後半はその少女のお話。最後まで読んだとき、胸が苦しくなる。それぐらいに暗さと明るさの対比が絶妙。

男子生徒たちの葛藤、少女の心の闇、そして由良の純粋さ。それらを夏の雰囲気に包んで、これでもかというぐらいに輝かす。眩しすぎる。

高校生って、こんな複雑やったんや。自分の高校生活はもっと単純やったと思う。終始楽しかったし。でも、たぶん今より心は複雑で、闇もあって、人間関係に悩まされて、それは小説も現実も同じなんかな。それを言語化しているかどうかの違い。

高校生に戻りたい。

 

 

好み: ★★★★★★

 

プシュケの涙 (講談社文庫)

プシュケの涙 (講談社文庫)

 

 

カクレカラクリ  森博嗣 著

あらすじ

”郡司朋成と栗城洋輔は、同じ大学に通う真知花梨とともに鈴鳴村を訪れた。彼らを待ち受けていたのは奇妙な伝説だった。天才絡繰り師、磯貝機九朗は、明治維新から間もない頃、120年後に作動するという絡繰りを密かに作り、村のどこかに隠した。言い伝えが本当ならば、120年めに当たる今年、それが動きだすという。二人は花梨たちの協力を得て、絡繰りを探し始めるのだが……。”

 

The First Line

”真知花梨は階段教室が好きだ。”

 

森博嗣著『カクレカラクリ』を読みました。

 

 

理系派の小説という印象の森博嗣さんの小説。今回は工学がメインで絡繰りの謎を解き明かす物語。ただ、初めに言っておくと、今回は死人が出てこない。つまりは、明るいミステリ。

この小説は絡繰りを探すというとてもシンプルな物語で、その中に冒険があったり謎があったり、そして最後には…。児童文学を読んでいるようなワクワク感があって、また夏休みを舞台としているだけあって童心に戻れるそんな爽やかな小説。小学生に読ませてもけっこう楽しめるかも。

登場人物もみんな個性的で、そして極端な悪人もいなくて、田舎独特の風土のなかのびのびと生活している感じがとても伝わってきた。田舎の夏、いいな。

絡繰りって、現代でいうプログラミングそのものやなととても思った。僕自身が今プログラミングを勉強していて日々苦戦していて、でもそのアルゴリズムと絡繰りのアルゴリズムはとても似ていることには気づいた。プログラミングにはまだそんなに魅力を感じてはいないけれど、絡繰りって素敵。興味がわいた。昔の人ってすごいな。

廃墟好きの僕にとって、物語の発端となった工場がとても気になります。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

カクレカラクリ (講談社ノベルス)

カクレカラクリ (講談社ノベルス)

 

 

白いへび眠る島  三浦しをん 著

あらすじ

”高校最後の夏、悟史が久しぶりに帰省したのは、今も因習が残る拝島だった。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。言うのもはばかれる怪物『あれ』が出た、と。不思議な胸のざわめきを覚えながら、悟史は「持念兄弟」とよばれる幼なじみの光市とともに『あれ』の正体を探り始めるが—―。十八の夏休み、少年が知るのは本当の意味の自由か――。”

 

The First Line

”船体に重くぶつかる波が、ゴオンゴオンと背中に振動を伝えてきた。”

 

三浦しをん著『白いへび眠る島』を読みました。

 

 

田舎の自然を背景にした青春小説なんかなと思って読んでみたけれど、徐々に自分の間違いに気づいてくる。そしてクライマックス、いきなり雰囲気が変わる。この小説は、文学としての青春小説というよりは絵のない友情漫画を読むスタンスの方がいいかも。

この島は島独特の温かさがあまりなくて、けっこうドライ。なんやろう、全体的に決して明るくない。陰湿というか、堅苦しいというか。

 そして悟史のはっきりとしなささ。そういう年頃とは思うけれど、島で暮らす幼なじみの光市とは対照的。だからこその絆なんかもしれんけれども。

本当の自由とは。「逃げ出したい場所があって、いつでも待っていてくれる人がいること」と言う光市。少しわかるかも。僕も地元は好きやけれど、どこかぬるくて、だから上京したけれど、でも帰る場所があるからこその自由な選択ができていると思っている。帰りたいけど帰りたくない。

 

 

好み: ★☆☆☆☆☆

 

白いへび眠る島

白いへび眠る島

 

 

七瀬ふたたび  筒井康隆 著

あらすじ

”生まれながらに人の心を読むことができる超能力者、美しきテレパス火田七瀬は、人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。その夜汽車の中で、生まれてはじめて、同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。その後、次々と異なる超能力の持主とめぐり会った七瀬は、彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と、血みどろの死闘を展開する。”

 

The First Line

”地ひびき。震動。”

 

筒井康隆著『七瀬ふたたび』を読みました。

 

 

七瀬シリーズの2作目。前作を読まずしてこの本読んだけれど、それでも十分に楽しめた。この前の話がとても気になる。

典型的なSF小説やけれど、どこか人間味にも触れていて、その独特の世界観ははまってしまうほどクセがある。好きな人はとことん好きになると思う。実際に、何度も映像化されているみたいやし。

暗黒組織との闘いが中心というよりかは、七瀬の細々と生きるその過程が中心で、その警戒しつつも普通の人間として生きようとする姿はとても人間らしくて応援したくなる。現れる男性みんなが興奮するほどの美貌、どんな姿なのでしょうね。暗黒組織とは一体。

テレパスはとても便利そうやけれど、もしこんな超能力が自分にあったらとてもやないけど生きていけないと思う。相手の考えていることがわかってしまって、自分の能力を知られまいとこっそり生きて、何のために能力はあるのか。幸か不幸か。もし自分の周りにこの能力を持っている人がいたら、それはそれで恥ずかしい。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

星降り山荘の殺人  倉知淳 著

あらすじ

”雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる殺人事件……。果たして犯人は誰なのか⁉あくまでフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編小説。”

 

The First Line

”「でも、そんなこと云ったって仕方ないじゃないか、気が付いた時には手が出てたんだから」”

 

倉知淳著『星降り山荘の殺人』を読みました。

 

 

叙述トリックでおすすめということで気になっていた小説をようやく読むことができた。推理小説でおなじみ設定である雪に閉ざされた山荘。今まで読んできた小説が頭にちらつきながらも読み進めた。

今回の事件の内容とトリックは正直とてもシンプルで、筆者からのメッセージも書かれているので話を進めやすくまた推理しやすい。こんなにも丁寧な推理小説はなかなかないかな。でも、あくまで本格派。

事件だけを追っていると正直物足りないかな。あと、今までに推理小説叙述トリックにたくさん触れてきた人にとっては少し拍子抜けも感じるかも。この小説は早い時期に読むことがおすすめ。慣れってこわい。

あまり書くとネタバレになりそうなので感想はこのぐらいにしておきます。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

星降り山荘の殺人 (講談社文庫)

星降り山荘の殺人 (講談社文庫)

 

 

On The Beach  喜多嶋隆 著

あらすじ

”湘南、ハワイ、ロス……夏の風が吹き抜ける海辺の街で生まれた5つの愛の物語――。小学生の頃、塾の先生から教わったビートルズの曲を2人で口ずさんだ初恋の思い出を切なく綴る「あの日、『ペニーレイン』を歌ったね」、ひと夏だけ滞在した大学生との恋を明るく描いた「風を見ていたサバ」など、夏のカラッとした爽やかさの中に、ほろ苦さ、切なさが溢れるハート・ウォーミングな物語。大人のための書き下ろし恋愛小説集。”

 

The First Line

〈ノース・ショア・セレナーデ〉”「10フィートの波ですって」というマリアの声。”

〈風を見ていたサバ〉”「ほら、早くしないと、置いてっちゃうよ」”

〈敗戦投手に口づけを〉”「まあ、そんなに落ち込むなよ、アキラ」”

〈あの日、『ペニーレイン』を歌ったね〉”「生まれ育った町、ですか?……」と僕はききなおしていた。”

〈潮風のパスタ〉”店のドアが開いた。”

 

喜多嶋隆著『On The Beach』を読みました。

 

 

大人の大人による大人のための恋愛小説。

あらすじに書かれていることが全てかな。この小説を的確に表している。夏の爽やかさの中にほろ苦さや切なさがこれでもかと溢れている物語たち。

小説に海が背景にあるだけで劇的に描写がきれいになる。僕が海が好きになった理由の一つは以前喜多嶋隆さんの小説を読んだからで、その海のきれいさとそこで繰りひろげられる切ない恋愛との相性は無敵に近い。

「『ペニーレイン』を歌ったね」の切なさは、「秒速5センチメートル」に近い。初恋という最もピュアできれいな恋愛と、海の爽やかさは読んでいて心苦しくなるほどにキラキラとしていて、自分の初恋を思い出さざるを得なかった。

恋愛の物語は一人ひとり違って、全部良い。恋愛に少し疲れて、爽やかさが欲しいなと思ったらぜひ読むことをおすすめ。

ハワイ行きたいな。

 

 

好み: ★★★★★☆

 

On The Beach (角川文庫)

On The Beach (角川文庫)

 

 

キップをなくして  池澤夏樹 著

あらすじ

”改札から出ようとして気が付いた。ないない、キップがない!「キップをなくしたら駅から出られないんだよ」。どうしよう、もう帰れないのかな。キップのない子供たちと、東京駅で暮らすことになったイタル。気がかりはミンちゃん。「なんでご飯を食べないの?」。ミンちゃんは言った。「私、死んでるの」。死んだ子をどうしたらいいんだろう。駅長さんに相談に行ったイタルたちは――。少年のひと夏を描いた鉄道冒険小説!”

 

The First Line

”ある初夏の朝、一人の少年が恵比寿駅から電車に乗った。”

 

池澤夏樹著『キップをなくして』を読みました。

 

 

今までに読んだことのないような新鮮さを感じた小説。

子どものひと夏が設定の小説は今までにもいくつか読んだけれど、この物語は淡い小説というよりかは絵本に近い感じかな。とてもライトやけれどどこか考えさせられる、子どもらしいお茶目さがありつつも違う環境で成長する姿だったり。

改めてあらすじ見ると、けっこう物語の確信言ってもうてるな。もう少し隠した方が…。何も知らないで読んだから、最初この小説がファンタジーなのかホラーなのか青春なのかわからなくて、でもその不思議なスタンスで読んだから余計にこの小説の世界を味わえた気がする。

僕も今までに「駅の子」に助けてもらってたのかな。さすがに今はもう助けられることもないし、もしかしたら見えさえもしないかもしれないけれど、こんな子たちがいると思って駅に行ってみたらまた面白そう。物語は至る所にある。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

キップをなくして (角川文庫)
 

 

哀しい予感  吉本ばなな 著

あらすじ

”幸せな四人家族の長女として、何不自由なく育った弥生。ただ一つだけ欠けているのは、幼い頃の記憶。心の奥底に光る「真実」に導かれるようにして、おばのゆきのの家にやってきた。弥生には、なぜか昔からおばの気持ちがわかるのだった。そこで見つけた、泣きたいほどなつかしく、胸にせまる想い出の数々。十九歳の弥生の初夏の物語が始まった――。”

 

The First Line

”その古い一軒家は駅からかなり離れた住宅街にあった。”

 

吉本ばなな著『哀しい予感』を読みました。

 

 

題名通り、最初から哀しい予感に包まれている。

この小説は確かに哀しいかったり心にある闇を描いていたりと、一見暗そうではあるけれど、実はこの小説に出てくる登場人物はみんな自分なりの幸せを持っているのであって、だからか奥底には光が感じられる。この小説には愛が満ち溢れている。

文学的ながらもとても優しくて、吉本ばななさん独特の雰囲気を味わうならもってこいの小説。

幼い頃の記憶ってとても曖昧で、今から遡るといい思い出ばかりやけれど、たぶん嫌なことは忘れているだけなんかな。

200ページもない小説やから、すぐに読める。やし、普段あまり小説を読まない人にも手に取りやすい。

夏の気分を味わいつつ、つながりの愛を感じられる、そんな小説。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

哀しい予感 (幻冬舎文庫)

哀しい予感 (幻冬舎文庫)

 

 

悪党たちは千里を走る  貫井徳郎 著

あらすじ

”しょぼい仕事で日々を暮らすお人好しの詐欺師コンビ、高杉と園部。ひょんなことから切れ者の美人同業者とチームを組むはめになり、三人で一世一代の大仕事に挑戦する。それは誰も傷つかない、とても人道的な犯罪計画だった。準備万端、すべての仕掛けは順調のはずだったが……次から次にどんでん返しが!息をつかせぬスピードとひねったプロット。ユーモア・ミステリの傑作長編。”

 

The First Line

”門構えは威圧的なまでに立派だった。”

 

貫井徳郎著『悪党たちは千里を走る』を読みました。

 

 

次から次へと話が進み、でも最後にはすべての伏線が回収されてとてもすっきりできる、そんなユーモア小説。

正直、詐欺師が主人公の小説はあまり好きではなくて最初は読む気がなかったけれど、読み始めてみるとどんどん小説の中に引き込まれて、どんどんページが進んでいった。傑作と謳う小説は基本的に面白くないけれど、これは面白かった。

この小説にはとにかくいろんなイベントがあって、でも散らからずすべてが一本の中に納まっていて、読みやすいしわかりやすいししっかりしている。

詐欺師ってめっちゃ怠け者やけれど、一方でめっちゃ真面目な人がなるんかも。こんなお人好しやったら、多少お金盗まれてもいいかな。うそです。でも、こんな人に子どもの頃に出会ったら、確かになついてしまうかも。これはほんま。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

悪党たちは千里を走る (幻冬舎文庫)

悪党たちは千里を走る (幻冬舎文庫)

 

 

山越くんの貧乏叙事詩  芦原すなお 著

あらすじ

”朋輩との切磋琢磨(麻雀)や日課(居酒屋通い、たまに庭の蛙観察)にいそしむ山越只明くん、二十歳。妙なバイトに借り出され、偏屈な教授の弟子にされつつ、毎日はおおむね愉快に、時折切なく過ぎてゆく。直木賞作家が贈る、昭和のぐうたら大学生のほんわかゆるゆる青春小説。”

 

The First Line

”あの年の夏休みは七月初めの梅雨明けと同時に始まったのだった。”

 

芦原すなお著『山越くんの貧乏叙事詩』を読みました。

 

 

この小説を手に取ったときは森見登美彦さんのパクリかなとも思ってたけど、それとはまた違う独特なコミカルさがと世界観があって面白かった。

人生で最も怠ける期間である大学生活は、いつの時代も同じやねんなと。現代とは違う昭和ならではの背景にもかかわらず、結果的にはぐうたらに行き着く。山越くんが森見さん小説の世界に迷い込んだとしても、たぶん違和感なくなじめると思う。大学生って不思議。

途中までは友人内でのアホなやりとりで面白く、最後は学生ならではの葛藤とアホさに少し心がうるっとくる。こんな友情なかなかないし、こんなにも気ままに暮らせたらきっと人生楽しいと思う。ラルケット・グラツィオーソはけっこう感動できる。

僕はもう大学を卒業して社会人となって、今となってはすでにあのぐうたらが恋しい。あの時は早く脱出したかったけれども。故郷を離れた今だからこそ読んでよかった。

 

 

好み: ★★★☆☆☆