小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

ぼくのメジャースプーン  辻村深月 著

 

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

 

 

あらすじ

”ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。”

 

The First Line

”薄く伸びた秋の日差しが、歩くぼくの影をうっすら地面に映し出す。”

 

辻村深月著、『ぼくのメジャースプーン』を読みました。

 

 

罪と罰の在り方、そして愛の在り方を考えさせられる小説。

やられたからやり返す、所謂「復讐」。でも、被害者が復讐をした時点で加害者になりうる。そして、復讐を果たした時、完全にすっきりするかといえばそうでもない。「ぼく」が、子どもながらに加害者に対してどう復讐し、向き合うのかというのがこの小説のベースであり、先生との掛け合いの中に、読者自身が内容を超えて現実的に考えさせられる。とても深い。

”「『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」”愛は相手への思いやりと言われるのが一般的なのかもしれないけれど、それでもそれは「エゴ」から生まれた感情であって、その当たり前やけれど忘れていたことを思いださせてくれた。「エゴ」をもって相手に思いやることで、その好意が当たり前ではなくて本心からのものになるのかな。

ふみちゃんはすごく大人。こんな大人が世の大半をしめれば、もっと住みやすい世の中になるんやろな。汚い部分も包んでしまうほどのピュア。

相手を縛る呪いの言葉、それって人それぞれ違ったものをもっているんかも。だから、発言には気をつけましょう。

 

 

好み: ★★★★☆☆

雀蜂  貴志祐介 著

 

雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

 

 

あらすじ

”11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器は使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった――。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!”

 

The First Line

”真っ暗な野原を歩いている。”

 

貴志祐介著、「雀蜂」を読みました。

 

 

驚愕のラストが気になって読んでみた。角川ホラー文庫からの出版やけれども、ホラーではない。

ミステリーの定番シチュエーション、雪山山荘。でも今回は人vsスズメバチ。読み始める前、ついついスズメバチ側はせいぜい3匹程度やと思っていたから、あまりの多さに少し興ざめ。こんなん刺されるのも時間の問題やん。どこにいるかわからない緊迫とした状況という要素は薄かったかな。

でも読み進めていくと、やはり人vs人に。たしかにラスト25ページぐらいから180度の方向転換。そして予測は不能。でも、正直おぉ!とはあまりならなかったかな。なるほど。ぐらい。

読み終えてからもう一度最初のページを見てみると、なかなかに面白い。

ハチには気を付けましょう。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

Yの悲劇  エラリー・クイーン 著

 

Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)

Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)

 

 

あらすじ

”行方不明を伝えられた富豪ヨーク・ハッタ―の死体が、ニューヨークの湾口に掲がった。死因は毒物死で、その後、病毒遺伝の一族のあいだに、目をおおう惨劇が繰り返される。名探偵ドルリー・レーンの推理では、有り得ない人物が犯人なのだが……。ロス名義で発表した四部作の中でも、周到な伏線と、明晰な解明の論理は読者を魅了し、海外ベストテンで常に上位を占める古典的名作。”

 

The First Line

”その二月の午後、ブルドッグのようにぶかっこうな深海トロール船ラヴィニアD号は、はるばる大西洋の波濤をこえてかえってきたが、サンディ岬を回って、ハンコック要塞を眼前にすると、船首に水泡をけたてひとすじに白い船跡をひきながら、ニューヨーク湾下へ入ってきた。”

 

エラリー・クイーン著、「Yの悲劇」を読みました。

 

 

悲劇シリーズの2作目。古典的名作と呼ばれる所以に少しながら触れられた。

きちがいじみた一族に次々と襲う惨劇。ミステリを読みすぎたせいか、正直一つ一つにパンチはあまりなくて、あれ?とは思ったけれども、それがすべてつながり、事件の全貌が見えた時、さすがだなと思った。気づいてもいいのに気づけない伏線、そしてこの事件の終わり方もまた名作所以なのかも。

このシリーズは、他の古典的名探偵シリーズとは少し異なって軽快なやり取りがしばしば見受けられるから、テンポよく読める。サム警部がまた良い味出しとる。

ドルリー・レーンは他の探偵とはまた少し違って、しっかりといた論理的プロセスを踏んで解決するタイプ。シャーロックホームズのようなずば抜けた観察力と推理力のタイプではないから、どちらかというと地味な印象やけれども、でもやっぱり名探偵。レーンの懐の深さが今作では際立つ。

ポワロの事件、ホームズの事件、それぞれの要素が少しずつ感じられた。名作のつながり。

 

 

好み: ★★★★☆☆

夏の夜会  西澤保彦 著

 

夏の夜会 (光文社文庫)

夏の夜会 (光文社文庫)

 

 

あらすじ

”祖母の葬儀のため、久しぶりに帰省した「おれ」は、かつての同級生の結婚式に出席した。同じテーブルになった5人は皆小学校時代の同級生。飲みなおすことになり、思い出を語り合い始めたが、やがて30年前に起こった担任教師の殺害事件が浮かび上がる……。女性教諭は、いつどこで殺されたのか?各人が辿る記憶とともに、恐るべき真実が明らかになっていく。”

 

The First Line

”人間の記憶とは極めて曖昧な代物であるらしい。”

 

西澤保彦著、「夏の夜会」を読みました。

 

 

こんなにも何転もする小説そうなかなかない。

第一話が展開早くて、あれ、これ一話完結?と思ってしまうほどであったけれど、そこからの展開がもうとにかく転がり続ける。そして、章末ごとにゾッとするほどに方向転換されて、どこに向かっているか全くわからなくなる。でも、すべてが論理的で、筋が通っていて、だから不思議と追いやすくて読みやすい。違和感は最初から。

人間の記憶のいい加減さたるや。30年ってこれほどまでに残酷なのか。忘れていたり、ふと思いだしたり、でも都合よく編集されていたり。それが積み重なればそれはもはやフィクション。これこそがこの小説の肝であって、面白いところ。また小学校時代という状況設定が絶妙で、リアリティのある曖昧さにつながっているなと思った。

記憶のいい加減さは、現代のマスコミに通じるなとしばし思った。この状況の全国的規模が今日の噂や都市伝説となり、またミクロ的にはコミュニティでの人間関係なのかなと。もちろん人間である以上絶対的な記憶を保持し続けることは難しいかもしれないけれど、かといって無責任に発言するのはいかがなものかと。

たった1日の出来事。お酒よっぽど強いなこの主人公たち。飲みたくなってきますね。

 

 

好み: ★★★★★☆

国境の南、太陽の西  村上春樹 著

 

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

 

 

あらすじ

”今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業続けていかなくてはならないだろう――たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現れて――。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。”

 

The First Line

”僕が生まれたのは一九五一年の一月四日だ。”

 

村上春樹著、「国境の南、太陽の西」を読みました。

 

 

村上春樹さんノーベル文学賞受賞してほしかったな。そう思って今回手に取った。

村上春樹さんの小説でいつもついてくる、脆くて蔭の感情が、今回は陽の絵にかいたような幸せな現実と対比されることでより際立っていた。12歳のころからすれ違い、37歳になってもなお付きまとう存在が、年月に比例するかのように濃くなっている。

この小説、他の村上春樹さんの作品と比べると短いけれど、内容はとても詰まっていて、感情が重たい。

あいまいな表現が相手を壊す。「たぶん」「しばらく」なんて言われたら、そりゃ待つでしょ。ハジメくんの素直さが表れている。そして、これはたぶん世間一般でも同じ。

かつて好きだった人のことって、僕は絶対忘れられないな。初恋も、もちろん。今どうしているか気になるし、もし今の僕の生活に登場してきたら、おそらく少なからずハジメくんのような感情を抱くやろな。

こんな生活が送れたら、まぁ幸せやろな。まさに絵に描いたような生活。うらやましい限りで、ぜひとも理想として描きたい。

「わかると思う。」このセリフこそが村上ワールドを表していると思う。

 

 

好み: ★★★★★☆

草枕  夏目漱石 著

 

草枕 (1950年) (新潮文庫)

草枕 (1950年) (新潮文庫)

 

 

あらすじ

”智に働けば角がたつ、情に棹させば流される――春の山路を登りつめた青年画家は、やがてとある温泉場で才気あふれる女、那美と出会う。俗塵を離れた山奥の桃源郷を舞台に、絢爛豊富な語彙と多彩な文章を駆使して絵画的感覚美の世界を描き、自然主義や西欧文学の現実主義への批判を込めて、その対極に位置する東洋趣味を高唱。『吾輩は猫である』『坊ちゃん』とならぶ初期の代表作。”

 

The First Line

”山路を登りながら、こう考えた。”

 

夏目漱石著、「草枕」を読みました。

 

 

難解すぎた。でもわかるこの小説の良さ。余の哲学を読み解くにはまだまだ僕は未熟すぎたけれど、景色の美しさと人の温もりを表すこの文章はとても魅力的だった。

俗世を離れるという現実からの逃避は、何も現代にだけ起こることではなくて、この時代にもあったんですね。明治から大正、戦争、民主主義など、激動期であったこの時代も、住みにくい世であったと思うと、現代が特別ということでもないな。

夏目漱石さんのファンと言うのもおこがましいけれど、やっぱり好きだな。人間のありのままに触れられる気がする。ついつい、この時代いいなと思ってしまう。夏目漱石さんの小説において、女性の存在は一つの特徴であると僕は思う。

”智に働けば角がたつ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。”

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

そして二人だけになった  森博嗣 著

 

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

 

 

あらすじ

”全長4000メートルの海峡大橋を支える巨大なコンクリート塊。その内部に造られた「バルブ」と呼ばれる閉鎖空間に科学者、医師、建築家など6名が集まった。プログラムの異常により、海水に囲まれて完全な密室と化した「バルブ」内で、次々と起こる殺人。残された盲目の天才科学者と彼のアシスタントの運命は……。反転する世界、衝撃の結末。知的企みに満ちた森ワールド、ここに顕現。”

 

The First Line

”僕は海が嫌いだ。”

 

森博嗣著、「そして二人だけになった」を読みました。

 

 

題名から惹かれた。ミステリーの傑作「そして誰もいなくなった」の要素を持ちつつ、森さんの理系要素もあって、さらには思いもよらない結末にたどり着いた。これはすごい。

ラスト100ページからが本番ってところかな。ミステリー要素のバルブでの出来事も読みごたえあったけれど、あくまで結末に向けての下ごしらえでしかなくて、早々にクライマックスがおとずれたときはついついあれ?と思ってしまった。最後の第10章で小説全体がひっくり返る。その衝撃たるや。

A海峡大橋ってあれやんな。そう思うと、何ともまぁスケールの大きいことやら。

2人の視点から書かれていて、それぞれ違った心理がまた緊張感を漂わせる。しっかり読んでいると、なぜ?と思う点はたしかにあった。でも、、、

理系独特な理論がいくつか紹介されていたけれど、どこか興味をもってしまう自分がいた。奥が深い。

 

 

好み: ★★★★★☆

神去なあなあ日常  三浦しをん 著

 

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

 

 

あらすじ

”平野勇気、18歳。高校を出たらフリーターで食っていこうと思っていた。でも、なぜだか三重県林業の現場に放りこまれてしまい――。携帯も通じない山奥!ダニやヒルの襲来!勇気は無事、一人前になれるのか……?四季のうつくしい神去村で、勇気と個性的な村人たちが繰り広げる騒動記!林業エンタテインメント小説の傑作。”

 

The First Line

"神去村の住人には、わりとおっとりしたひとが多い。”

 

三浦しをん著、「神去なあなあ日常」を読みました。

 

 

林業に着目した小説を読むのが初めてで、新鮮やった。

出てくる登場人物が皆とても個性的で、コミカルな小説で読みやすかった。ヨキの自由ぶりが田舎っぽさを感じて、奥さんのみきさんとの仲にうらやましく思った。そして、清一さんの奥さんに対する思いにも感動。勇気の恋は…。

林業って斜陽で普段はあんまり注目していないけれど、日本の国土の70%は山で、なくてはならない職業。その大変さとすばらしさも垣間見れてよかった。木ってなんもせんと生えているわけではないねんな。

村独特なコミュニティに少し憧れる。神様の存在を大切にして、自然と人間の住み分けをしっかりとしていて、そんな昔ながらの田舎な場所に癒される。

なにも一流企業に就職したり、大学に進学したりすることだけがすべてではない。どこに行っても楽しいことはあって、案外未知の思いもしない場所にこそ自分の居場所があったりして。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

エンド・ゲーム  恩田陸 著

 

エンド・ゲーム―常野物語 (集英社文庫)

エンド・ゲーム―常野物語 (集英社文庫)

 

 

あらすじ

”『あれ』と呼んでいる謎の存在と闘い続けてきた拝島時子。『裏返さ』なければ、『裏返され』てしまう。『遠目』『つむじ足』など特殊な能力をもつ常野一族の中でも最強といわれた父は、遠い昔に失踪した。そして今、母が倒れた。ひとり残された時子は、絶縁していた一族と接触する。親切な言葉をかける老婦人は味方なのか?『洗濯屋』と呼ばれる男の正体は?緊迫感溢れる常野物語シリーズ第3弾!”

 

The First Line

”夜のバスは空いていた。”

 

恩田陸著、「エンド・ゲーム」を読みました。

 

 

正直な感想、よくわからなかった。常野シリーズ読んできたけれど、これはけっこう難しい。蒲公英草紙は面白かったけれども。

難解でよくわからないながらも、読んでしまう魅かれる雰囲気は、さすが恩田陸さんと思う。この物語は、映像向きやと感じた。実際映像で観たい箇所が少なからずあった。

表も裏も一緒という考え方、深い。表裏一体とは少し違ったニュアンスで、溶け込むような考え方。

現実の世界でも、常野一族のような特殊な人間っているんかな。いてほしい。少年的願望。

母と娘が同時期に結婚するって、どんな心情なるんやろ。あり得ることやけれど、すごいことやな。身の回りには合ってほしくない。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

対岸の彼女  角田光代 著

 

対岸の彼女 (文春文庫)

対岸の彼女 (文春文庫)

 

 

あらすじ

”専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが……。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。”

 

The First Line

”私って、いったいいつまで私のまんまなんだろう。”

 

角田光代著、「対岸の彼女」を読みました。

 

 

現代の人間関係をリアルに描いた小説。人間の残酷さを身に染みて感じた。

この小説では女性に焦点を当てていたけれど、これは男性でもそんな大差ないなと思った。まぁ男性の方が少しはあっさりしているんかな。

何かを起こそうとする人は嫌いやないけれど、いい加減で段取り悪い人は嫌い。葵みたいな人。

自分と異質なものを仲間はずれにする。仲間はずれにされたくないから周りに合わす。これが人間のコミュニティであり、もはやこれはどうしようもない本能的感覚なんやと僕は考えている。

愚痴を言うことは別に絶対悪いというわけではないけれど、醜い。愚痴ばっかりいう人ほど、自分を見ていない。

僕も元々はそうで仲間はずれを恐れていた時期もあったけれど、大学という社会に属した瞬間、こわいものがなくなった。つるむことが馬鹿馬鹿しくて、表面的な人間に飽き飽きした。今もそう思っている。だから、大学では全くもって孤立しているし、友だちなんて言うまでもなくいない。でも、それでいい。

本当の友だちって、そんな多いものやない。すぐ友だちって言葉出す人のことは信用できないし、まず僕は閉ざす。僕の考え方が正しいとは一概には言えないけれど、ただ、この淡白さは楽ですよ。これぐらいがちょうどいい。

僕は将来、どんなことがあっても奥さんの味方になり続けようと改めて決意した。

 

 

好み: ★★★☆☆☆