小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

死神の精度  伊坂幸太郎 著

 

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 

 

あらすじ

”①CDショップに入りびたり②苗字が町や市の名前であり③受け答えが微妙にずれていて④素手で他人に触ろうとしない――そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目には死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。”

 

The First Line

”ずいぶん前に床屋の主人が、髪の毛に興味なんてないよ、と私に言ったことがある。”

 

伊坂幸太郎著、「死神の精度」を読みました。

 

 

死神の視点からみた人間。淡白に人間を評価する半面、ミュージックに心を馳せる無邪気な一面がいとおしい。

6つそれぞれに違う物語があって、1つの小説でいろいろなジャンルを読んだ気になれた。いろんな感情になれる。最後に今までのことがつながって、すごくいい終わり方。清々しい気分になれたし、人生っていいなと思った。

それぞれに気づかぬうちに死が近づいていて、でも日常に千葉が加わっただけで特に変化はなくて、死に対する緊迫感はまるでない。死ぬ時がわかっていればやり残したことをやり遂げて死ぬことができるけれど、彼らには残念ながらできない。でも、それでも彼らは必死に生きていて、僕から見れば死ぬのがもったいないなと思うほど立派な人生に思えた。

もし僕が死神の存在に気づけたなら、好きな人に想いを告げるかな。

死神よ、僕の前にはまだ現れないでください。CDショップに入り浸る人には要注意。

 

 

好み: ★★★★☆☆

深夜特急  沢木耕太郎 著

 

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

 

 

深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール (新潮文庫)

深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール (新潮文庫)

 

 

深夜特急〈3〉インド・ネパール (新潮文庫)

深夜特急〈3〉インド・ネパール (新潮文庫)

 

 

深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫)

深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫)

 

 

深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫)

深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫)

 

 

深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン (新潮文庫)

深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン (新潮文庫)

 

 

あらすじ

〈1〉”インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗り合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ!”
〈2〉”香港・マカオに別れを告げ、バンコクへと飛んだものの、どこをどう歩いても、バンコクの街も人々も、なぜか自分の中に響いてこない。〈私〉は香港で感じた熱気の再現を期待しながら、鉄道でマレー半島を南下し、一路シンガポールへと向かった。途中、ペナンで娼婦の館に滞在し、女たちの屈託ない陽気さに巻き込まれたり、シンガポールの街をぶらつくうちに、〈私〉はやっと気づいた。”
〈3〉”風に吹かれ、水に流され、偶然に身をゆだねる旅。そうやって〈私〉はやっとインドに辿り着いた。カルカッタでは路上で突然物乞いに足首をつかまれ、ブッダガヤでは最下層の子供たちとの共同生活を体験した。ベナレスでは街中で日々演じられる生と死のドラマを眺め続けた。そんな日々を過ごすうちに、〈私〉は自分の中の何かから、一つ、また一つと自由になっていった――。”
〈4〉”パキスタンの長距離バスは、凄まじかった。道の真ん中を猛スピードで突っ走ったり、対向車と肝試しのチキン・レースを展開する。そんなクレイジー・エクスプレスで、〈私〉はシルクロードを一路西へと向かった。カブールではヒッピー宿の客引きをしたり、テヘランではなつかしい人との再会を果たしたり。前へ前へと進むことに、〈私〉は快感のようなものを覚えはじめていた――。”
〈5〉”アンカラで〈私〉は一人のトルコ人女性を訪ね、東京から預かってきたものを渡すことができた。イスタンブールの街角では熊をけしかけられ、ギリシャの田舎町では路上ですれ違った男にパーティに誘われて――。ふと気がつくと、あまたの出会いと別れを繰り返した旅もいつのまにか〔壮年期〕にさしかかり、〈私〉は、旅をいつ、どのように終えればよいのか、考えるようになっていた――。”
〈6〉”イタリアからスペインへ回った〈私〉は、ポルトガルの果ての岬・ザグレスで、ようやく「旅の終わり」の汐どきを掴まえた。そしてパリで数週間を過ごしたあと、ロンドンに向かい、日本への電報を打ちに中央郵便局へと出かけたが—―。Being on the road――ひとつの旅の終りは、新しい旅の始まりなのかもしれない。旅を愛するすべての人々に贈る、旅のバイブル全6巻、ここに完結!”

 

The First Line

”ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐずしてはいられない、と思ってしまったのだ。”

 

沢木耕太郎著、「深夜特急」を読みました。

 

 

中学の頃お世話になった塾の先生に大学入学を報告しに行った4年前、この本を紹介された。紹介というより読むべきと推された。その時はミステリーばかり読んでいたからいずれ読もう程度に気を留めていたけれど、もっと早くに読んでおくべきやった。この小説は、間違いなく大学卒業までに読むべきもので、早ければ早いほど良い。

僕はこの本を読んでいる途中、KLからマラッカ経由でシンガポールをバスで旅した。一人旅が決まってから偶然この小説をみつけたから、本当に偶然。これも運命なんかな。

国語学部に所属する身であるから、留学を経験したり、海外に行ったりする経験はそこそこにあった。この本をそれらの経験前に読んでおけば、もっと密の濃いこってりした経験が得られたと思うと少し後悔する。でも、遅かれこの小説と出会えてよかったし、これからの参考になる。

この小説を追って思ったのは、元々憧れていたヨーロッパよりもアジア圏の方に魅力を感じてる自分がいるということ。アジアをもっと放浪したいという刺激になった。

流れに身を任せる、これができる時間って本当に幸せなことなんやなと感じた。スケジュールなんてくそくらえ。そんな感覚も大切。そして、人生何とかなる。

 

 

好み: ★★★★★☆

ターン  北村薫 著

 

ターン (新潮文庫)

ターン (新潮文庫)

 

 

あらすじ

”真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみながら目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。◀▶ターン。いつかは帰れるの?それともこのまま……だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。”

 

The First Line

”君は、スケッチブックを開いて、八角時計をいくつも描いていた。”

 

北村薫著、「ターン」を読みました。

 

 

SFの要素に恋愛も含まれていて、今話題の「君の名は。」を思わせる小説。映画観てないから何とも言えんけれど。

人称が少し独特で、これが単純な一視点でないところが面白い。視点によって心情も移り変っていて、それこそがこの小説の核でありキーポイントやと僕は思った。

構成がすごく単純な起承転結やなと感じていたけれど、正直、結の結でもう少しはっきりしてほしかったかな。少し駆け足感あって、つながっていない感があって、そこが物足りなかった。

起きたら誰もいなくなって、しかも生活がターンされたら、自分ならどうなるやろ。ゴールが見えていたら楽しそうやけれど、永遠を感じさせられると絶望しかない。今日の次に明日があるからこそ毎日生き甲斐があるし、楽しい。

こんな状況になったら、電話だけで恋に落ちるやろうな。でも、それも真実か否か。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

母性  湊かなえ 著

 

母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)

 

 

あらすじ

”女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。……遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも――。圧倒的に新しい、「母と娘」を巡る物語。”

 

The First Line

”10月20日午前6時ごろ、Y県Y市**町の県営住宅の中庭で、市内の県立高校に通う女子生徒(17)が倒れているのを、母親が見つけ、警察に通報した。”

 

湊かなえ著、「母性」を読みました。

 

 

意図されていたのか、見事にはまった。まさかの結末。「母性について」の場面が最後に効いてくる。

湊かなえさんの小説は、読んだ後にいつもどろどろとした余韻に襲われる。それが作風で、その現実味のあるミステリー感が魅かれる。

母と娘の関係の複雑さ。「母」と「娘」という役はあるものの、一人の人間であることを忘れてはいけなくて、子どもはけっして親の作品ではない。こうなってほしいという思いはあっても、それを強要し解釈し、自分本位になってしまうから歪む。

「母性」は元々みんなに備わっているものではなくて、育てていくうえで備わるものでもある。僕自身親ではないからなんとも言えない感覚ではあるけれど、ここにエゴは存在してもいいのか。いい気もするし、悪い気もする。

愛することって複雑で難しいですね。僕は愛を受けていると思うけれど、反面言い切れない自分もいる。

姑があんなにいびるのは、嫉妬からなんかな。理由はなんであれ、是非とも寛容になってほしい。あんなん、奴隷と大差ない。

 

 

好み: ★★★★☆☆

金閣寺  三島由紀夫 著

 

金閣寺 (1956年)

金閣寺 (1956年)

 

 

あらすじ

”1950年7月1日、「国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世人の耳目を驚かせた。この事件の蔭に潜められた若い学僧の悩み――ハンディを背負った宿命の子の、生への消しがたい呪いと、それゆえに金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中するにいたった悲劇……。31歳の鬼才三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の金字塔。”

 

The First Line

”幼時から父は、私によく、金閣のことを語つた。”

 

三島由紀夫著、「金閣寺」を読みました。

 

 

下鴨神社で出会った「金閣寺」、ようやく読破。

難解な小説で、古文を読むような感覚にすら陥ることも時々あったけれど、筋は割と単純で、また現代にも通ずるものがあるのかなと思った。文体がその当時の言い回しが使われていて、新鮮であったとともに、改めて近代文学嫌いやないなと再確認できた。

学僧の金閣寺に対する感情。美という集合体に、女や憎、闇、癒、敵さえも含まれていて、この複雑かつ絶対的な象徴こそが、この小説において味わうことができる醍醐味やと僕は思う。そしてこの感情は、行き過ぎてはいるけれど現代に生きる我々にも秘めているもので、なりの果てを示すとともに、変わらない人間性も見出せる。

これが100%のフィクションではないというところもまた面白い。現実味がないけれど、実際起こっている出来事。この、何とも言えないバランスがとても独特で、さらに告白体であることがより心的に響く。不朽の名作と呼ばれるのも納得。

この小説を国語の授業に取り上げられていたら、僕は間違いなく寝る。でも、今となっては、先生の解釈を聞いてみたいと思える。

理解できない点はいくつかあるから、いつの日かもう一度読み返してみたい。

 

 

好み: ★★★★★☆

すべて真夜中の恋人たち  川上未映子 著

 

 

あらすじ

”「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。」わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった――。芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。渾身の長編小説。”

 

The First Line

”真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。”

 

川上未映子著、「すべて真夜中の恋人たち」を読みました。

 

 

とても文学的で、フィクションらしい小説。

文章がとてもきめ細かくて、情景と心情の移り変わりと、「光」がとても繊細。一つ一つが崩れそうで、でも辛うじて文章がつながっているような印象。

とてもメッセージ性が強いなと感じた。登場人物それぞれが独特な考え方を持っていて、それが作者からのメッセージであり読者に教えたい光なんかな。正直、読んでいて少し窮屈だった。

この小説は、とても純粋でありながらも大人の恋愛という少し独特な内容になっていて、純粋な分その心情も初々しいところはある。でも、僕がこの小説から受けた印象は、「狂気」。登場人物、特に主人公の考え方と行動に恐怖さえ感じた。決してサイコな内容ではないけれど、僕にはどうしてもその印象から抜け出せなかった。

恋愛の在り方は人それぞれ。恋愛とセックスをつなげるというのは一般的なんかもしれないけれど、絶対的ではない。僕は、人が恋愛を語る時常に違和感を感じる。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

凍りのくじら  辻村深月 著

 

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

 

 

あらすじ

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な”道具”が私たちを照らすとき――。”

 

The First Line

”白く凍った海の中に沈んでいくくじらを見たことがあるだろうか。”

 

辻村深月著、「凍りのくじら」を読みました。

 

 

長くてけっこう読みごたえあった。この世界観、好き。

読み進めどなかなか全体図がつかめなくて、先が霧に包まれているような感じ。S.F(少し・不思議)な雰囲気の日常が続く中で、終わりのないいつまでも読んでいられるような、そんな印象。でも俯瞰的に物語を見てみると、しっかりと一貫していて、だからこそこの雰囲気が保たれているんやろなと思った。

出てくる人物がとても個性的で、でもほんと実際にいそうな関係が面白かった。そこがすごく等身大で、僕自身S.F(少し・フラット)やからこんな関係に不在ないと感じるかも。

ドラえもんを、正直僕は最近あまり好きではないけれど、でもやっぱり偉大やなと改めて気づかされた。大人になってしまったな。

陰湿やけれど、優しい小説。実際にありそうで、でもフィクション。だから、S.F(少し・フィクション)と僕はこの小説を収める。

 

 

好み: ★★★★☆☆

きいろいゾウ  西加奈子 著

 

きいろいゾウ (小学館文庫)

きいろいゾウ (小学館文庫)

 

 

あらすじ

”夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった――。”

 

The First Line

”とおいとおい、空のむこう、雲をこえて、かぜをすりぬけて、そのもっともっとむこうに、一頭のゾウがすんでいました。”

 

西加奈子著、「きいろいゾウ」を読みました。

 

 

ずっと気になっていた作家さんの小説。

文章が伝える感情や情景にとても力があるなと感じた。明るい場面、暗い場面と人物の心情がこれほどまでに手に取るようにわかる文章ってなかなかない。だから、入り込める。西加奈子さんの文章、きれいやからとても好き。

優しい小説。読みやすいとかではなくて、人の優しさに触れられる。お互いを想いやる気持ちや、周りを支え支えられることに気づける関係、そしていろんな種類の恋。当たり前やけれどなかなか実際に触れることが難しい、そんなシンプルかつ遠い感情の大切さに気付かされる。

周囲の生き物と会話できるって、これほど楽しいことないかもと少し憧れる。でも、寂しいからなんでしょう。

この小説の核と思われる「寂しさ」。でも、この悩みって見方を変えるととても幸せな悩みであって、相手がいるからこそ感じられる贅沢な感情やなと思った。つまりは、幸せやろうと不幸やろうと、それぞれに悩みは少なからずあるもので、違う立場からしたらそれが憧れにもなりうるし、悩みってそんなもん。やし、いくらしんどくても自分が幸せと思っている方がよっぽど楽しいかなと、最近読んだ小説も踏まえてそう感じました。

こんな田舎暮らしいいな。憧れる。

 

 

好み: ★★★★★☆

きつねのはなし  森見登美彦 著

 

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

 

 

あらすじ

”「知り合いから妙なケモノをもらってね」籠の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。通夜の後、男たちの酒宴が始まった。やがて先代より預かったという”家宝”を持った女が現れて(「水神」)。闇に蟠るもの、おまえの名は?底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。”

 

The First Line

”天城さんは鷺森神社の近くに住んでいた。”「きつねのはなし」
”先輩の下宿に通い、その言葉に耳を傾けていた頃のことを思いだす。”「果実の中の籠」
”夕立が近づいてくる気配を私は好んだ。”「魔」
”通夜や葬儀へ出かけたことはあまりない。”「水神」

 

森見登美彦著、「きつねのはなし」を読みました。

 

 

いつものコミカルで深海学生が主役のファンタジーとは打って変わった、不気味な小説。けれども軽快な文章は健在で、だからか読みやすい。森見登美彦さんらしくない雰囲気やけれども森見登美彦さんらしい内容。

4つとも、ホラーまではいかないけれどもどれも不気味で、古都が舞台となっている分余計に謎が秘められる。あくまでファンタジーではあるけれども、実際京都の路地歩いていたら遭遇しそうな、そんなリアリティも感じられる。

個人的には、2つ目の話が面白かった。少し感動的で、森見登美彦さんの小説恒例の先輩も登場して、切ない。こんな、何をしているのかわからない、主のような、未知に満ちた、でも人間的な先輩に出会いたかった。

3つ目の話の、夏の雰囲気や幼馴染みの関係、そして酒を飲む場面が、とても絵になっていて憧れすら感じた。

あの”ケモノ”は結局何ものやったのか。一度出会ってみたいものです。京都歩いていたらいつかは見つかるかな。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

掏摸  中村文則 著

 

掏摸(スリ) (河出文庫)

掏摸(スリ) (河出文庫)

 

 

あらすじ

”東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎――かつての仕事をともにした闇の社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化!”

 

The First Line

”まだ僕が小さかった頃、行為の途中で、よく失敗をした。”

 

中村文則著、「掏摸」を読みました。

 

 

又吉さん絶賛の作家とあって興味はあったものの、なかなか本が見つからず今回ようやく読めた。

第一の印象は、とにかく暗い。ここまで暗い小説もなかなかない。これが中村文則さんの作風なんかな。そして、とても文学的。一見他にもありそうな小説やけれど、文章の深みがまったく違う。これが又吉さんが絶賛した所以なのかな。

スリ師を主人公とした内容で、言うなれば裏社会の日の当たらない部分やから当たり前と言えば当たり前やけれど、この小説は文章からも暗さがにじみ出ている気がした。でも、唯一人間と命に対する光だけは残されていて、その対比で余計に目立った。

運命って、残酷やなとこの本から改めて思った。日々の生活で主観的に言う「運命」なんて軽いもので、本当に感じる「運命」はもはや無意識にでも感じてしまうほど重くてどうしようもないものなんかも。人に自分の運命を支配された時、希望こそ残酷でそこには絶望しか残されていないのでしょう。

運命の赤い糸って感じられることはとても幸せですね。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆