ルーズヴェルト・ゲーム 池井戸潤 著
あらすじ
”大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。廃部にすればコストは浮くが—―それぞれの人生とプライドをかけて挑む奇跡の大逆転とは。”
The First Line
”赤茶けた土のついたスパイクで打席を均したとき、北大路犬彦は興奮も緊張も感じなかった。”
この小説は、「半沢直樹」よりかは「下町ロケット」派の内容。正義による悪者退治よりかは、熱き社会人のサクセスストーリー。
胸を熱くさせる内容ってたいてい若者が主人公のものが多いけれど、この小説には社会人ばっかり出てくる。一つの会社で働く社員一人ひとりの思いが一つになったり衝突したり。こんな会社、楽しいだろうな。いろんな視点で物語が進んでいくから、いろんな思いを感じる。
池井戸潤さんの小説全体に言えることやけれど、ここまで悪者を表現しそして逆境を感じさせるのはすごい。読んでてまるで当事者になったかのように感情が入ってくる。そして、最後はものすごくすっきりする。
社会人になったらただ働いて、それがまるで歯車のように思ってしまうこともあるけれど、それでもやっぱり一人ひとりの人生がしっかりとあるんだなと気づかされる。青春こそすばらしいというわけでもなさそう。社会人にも良いところはあるから、それが自信にもなる。
就職前にこの小説に出会えてよかった。とても熱い感情を得ることができた。
好み: ★★★★★☆
夏のバスプール 畑野智美 著
あらすじ
”夏休み直前の登校中、高校一年生の涼太は女の子にトマトを投げつけられる。その女の子・久野ちゃんが気になるが、仙台からきた彼女には複雑な事情があるらしい上、涼太と因縁のある野球部の西澤と付き合っているという噂。一方、元カノは湿っぽい視線を向けてくるし、親友カップルはぎくしゃくしているし、世界は今年で終わるみたいだし――。どうする、どうなる、涼太の夏!?胸キュン青春小説!”
The First Line
”真っ赤に熟したトマトが飛んできて、僕の右肩に直撃する。”
畑野智美著、『夏のバスプール』を読みました。
これほどまでに眩しくて、爽やかな青春小説はなかなかない。最後まで、どうなるんやろうと気になってしかたなくなる。読み終わっても、まだこの世界に浸っていたいと思っている。
映画化されてよく女子高生が観に行くような恋愛青春小説とは全然違って文学的。でも、眩しいぐらいの青春小説。夏の日差しが文章からはっきりと見えてきて、その風景と相まって直視できないほどのきらびやかさ。今までに読んだ夏設定の青春小説で一番日差しが染みた。
その光の下で渦巻く高校生の複雑な心境。純粋ながらも現実を知りつつある彼らの葛藤や苦しみがとても繊細に表現されていて、対比が絶妙。そして、教師たちの温かさ。有村先生みたいな先生、絶対好かれる。
とても短期間で涼太の身の回りにいろんなことが起こって、それが涼太のどこか抜けたでも照れくさくも純粋に向き合う姿がとても愛おしい。そして、天真爛漫で強さを装いつつも悩む久野ちゃん。威張りながらも一途な西澤君。などなどキャラクター全員が輝いている。
こんな高校生活送りたかったなと思うけれど、たぶん実際は僕もこんなキラキラした高校生活を送っていたんやと思う。だからこんな小説を読みたいと思うんやし、つまりはあの頃に戻りたい。
涼太みたいに何気なく他人を傷つけてもしかしたら根に持たれているかもしれない。でも、涼太のような純粋さは持ちたいな。にしても、失恋はつらい。
好み: ★★★★★★
黄昏の百合の骨 恩田陸 著
あらすじ
”強烈な百合の匂いに包まれた洋館で祖母が転落死した。奇妙な遺言に導かれてやってきた高校生の理瀬を迎えたのは、優雅に暮らす美貌の叔母二人。因縁に満ちた屋敷で何があったのか。「魔女の家」と呼ばれる由来を探るうち、周囲で毒殺や失踪など不吉な事件が起こる。将来への焦りを感じながら理瀬は――。”
The First Line
"あの人の姿を思い浮かべる時、いつもその時刻は夕暮れ時だ。”
恩田陸著、『黄昏の百合の骨』を読みました。
恩田陸さんの小説独特の雰囲気に満ちた、ミステリアスな物語。
百合に包まれた洋館の謎と親戚関係の因縁。恩田陸さんらしい設定と登場人物。たまに読者を置いていくほどの独走ミステリーもあるけれど、この小説は最後までしっかりと完結できた。次々と謎が出てきては怪しい行動に惹かれて、気づけばどんどんページを繰っていた。
この小説に光は決して似合わない。黄昏、良い表現。タイトルが絶妙だなと読後に感じた。さすがとしか言いようがない。
大人びている女子高生理瀬にも注目。この小説にぴったりな謎めいた主人公。聡明ながらも謎を秘めた従兄弟。優雅でどうしようもない妹伯母と優しさを表に見せる姉伯母。全てが「魔女の家」にぴったり。勝雪の最初の慣れ慣れしさに少し嫌悪感を抱いたけれど、めっちゃいいやつ。こんな光の存在が一人いることで、小説の深みがでる。
家族の因縁って怖い。由緒正しい家にはつきものなんかな。でも、そんな曰くつきの屋敷が家の近くにあったら少し面白そう。
好み: ★★★★☆☆
プリズム 百田尚樹 著
あらすじ
”ある資産家の家に家庭教師として通う聡子。彼女の前に屋敷の離れに住む青年が現れる。ときに荒々しく怒鳴りつけ、ときに馴れ馴れしくキスを迫り、ときに紳士的に振る舞う態度に困惑しながらも、聡子は彼に惹かれていく。しかしある時、彼は衝撃の告白をする。「僕は、実際には存在しない男なんです」。感涙必至の、かつてない長編恋愛サスペンス。”
The First Line
”私が初めて岩本家を訪れたのは三月の初めだった。”
百田尚樹著、『プリズム』を読みました。
普通の恋愛小説とは一味違った設定。
百田さんの小説は、とにかく勉強されて書かれている感がすごい。これほどまでに難しいテーマでも事細やかに書かれていて、とてもリアリティを感じられる。読後は、授業を受け終えた時のように知識に溢れる。そして、さすが構成作家さんと思える構成。ぶれずしっかりとしているから読みやすい。
聡子さん個人的には好きになれん。相手の状況を顧みずに自分の恋を押し付ける感じがあって、これが大人の恋愛なんかもしれんけれどそのわがままさが子供っぽい。結末に向けて恋が盛り上がる様子は、昼ドラそのもの。そんな大人な恋愛小説が読みたい人にはぴったりかも。
多重人格が主題になるねんけれど、もし自分がと思うとやりきれない気持ちになる。別人格が現れる間の記憶がないなんてただただ怖い。でも、実際にあることやねんな。子どものころ、「24人のビリー・ミリガン」の特集番組を見て少しトラウマがあって、それにもこの小説が関連しているから最初少し読むの躊躇したぐらい。でも、最後まで読んで読んでよかったなと今は思ってる。
好み: ★★☆☆☆☆
御手洗潔の挨拶 島田荘司 著
あらすじ
”嵐の夜、マンションの十一階から姿を消した男が、十三分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?奇想天外とみえるトリックを秘めた四つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。”
The First Line
「数字錠」”私が御手洗潔との長いつき合いを思い起こす時、いつも頭に浮かぶのは彼の風変わりな性格のことである。”
「疾走する死者」”猿島で起こった不思議な事件のことは、いつかお話ししたと思う。”
「紫電改研究保存会」”「何のまじないだい?そりゃ」”
「ギリシャの犬」”神田川は、郊外から山の手を抜け、ほとんど東京の中心部を貫くようにして流れてくると、隅田川に注ぎ、終る。”
奇想天外なトリックとしか言いようのないトリックたち。こんなんもし長編のミステリで使われたら、おそらく許されない。でも、それが短編でかつ御手洗潔が絡むからこそ面白くて、許せる。だからこの小説はトリックよりも、御手洗潔の行動や物語そのものを単純に楽しむものかなと感じた。そこが、シャーロックホームズとは少し違う。
とは言いつつも、御手洗潔シリーズこそ現代日本版シャーロックホームズと言いたくなる要素が豊富にある。設定が大英帝国やなくて日本というところがまた手の届きそうで気楽な良いところ。
この少し飛んだ推理は、どこか古畑任三郎を思わせる。みんなを置いてきぼりにして勝手に推理が飛んで、でも筋が通って解決する様は面白い。
シャーロックホームズシリーズを読んだ人にはぜひこの4つの物語を読んでほしい。きっと、共通する点を見いだせるはず。そして、御手洗潔の人柄に触れてほしい。
好み: ★★★☆☆☆
そのときは彼によろしく 市川拓司 著
あらすじ
”小さなアクアプラント・ショップを営むぼくの前に、ある夜、一人の美しい女性が現れる。店のドアに貼ってあったアルバイト募集のチラシを手にして――。採用を告げると彼女は言った。「私住むところがないの。ここに寝泊まりしてもいい?」出会うこと、好きになること、思いやること、思い続けること、そして、別れること……。この小説に書かれているのは、人間の持つ数多くの優しさと心の強さです。ミリオンセラー『いま、会いにゆきます』の著者による、最高のロマンチック・ファンタジー!”
The First Line
”彼はひどく風変わりな少年だった。”
市川拓司著、『そのときは彼によろしく』を読みました。
人生で出会うエッセンスすべてが詰まった小説。
はじめあらすじを読んだときは、正直くさい恋愛ものかなと思ってたけれど、そんな薄いものとは全然違った。読んでいて何か大切なことに気づかされる、また思いださせる、そんな濃さのある小説だった。
この小説に書かれているやさしさだったり相手を想い続づける強さだったりさえあれば、幸せな人生が送れると思う。この小説はだから幸せに満ち溢れている。お金では決して変えない、人間の幸せの真髄に触れたような感覚。
「あの世界」を持つ人間はそれだけで持たない人間よりは幸せだと思う。僕は確実に持っている。周りの人以上に。だから過去ばっかり見ている。「あの世界」の入口は当たるところにあるけれど、それに気づくのはその時が過ぎてからなんかな。そこがもどかしい。
いつまでも一つの恋をひきづるなんて女々しいって言われるかもしれないけれど、そんなこと決してない。一度想ってしまった事を忘れる方が残酷で非人間的。
自分の好きなことを成し遂げる信念、夢を持ち続ける魅力、人を想い続け待ち続ける強さ、過去を大事にする純粋さ、これらを肝に銘じてこれからも生きたい。
好み: ★★★★★★
失はれる物語 乙一 著
あらすじ
”目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。”
The First Line
「Calling You」”わたしはおそらくこの高校で唯一の、携帯電話を持っていない女子高生だ。”
「失はれる物語」”妻は結婚するまで音楽の教師をしていた。”
「傷」”オレの通う小学校には特殊学級というのがあって、問題のある生徒が何人か集められていた。”
「手を握る泥棒の物語」”古い温泉宿の、伯母とその娘が宿泊している部屋でのことだった。”
「しあわせは子猫のかたち」”家を出て、一人暮らしをしたいと思ったのは、ただ一人きりになりたかったからだ。”
「ボクの賢いパンツくん」”先生が算数の時間にボクをゆびさしてしつもんしたけど、ボクはそれにこたえられなくて席を立ったままうつむいていたんだ。”
「マリアの指」”「恭介、私はどうしたらいい?」”
「ウソカノ」”放課後の教室でいつものようにみんなの馬鹿話に参加していたわけだが、壁の時計を見て僕は立ち上がった。”
乙一さん著、『失はれる物語』を読みました。
世にも奇妙で少し不思議な世界。その現実とのわずかな差の世界観やからなんでもありになる面白さ。
一つ一つの短編に長編並みの濃さがある。乙一さんのジャンルと言えばやっぱりホラーのイメージがある。でも実際には設定にホラー要素が少し使われることはあってもジャンルは多彩で、ホラー小説を読むときの緊迫感はいい意味で全くと言っていいほどない。多彩すぎて、この小説内の物語ひとつひとつ色が違って、全く飽きない。
主人公は、子どもが中心。その特有の視点と感情描写がとてもきれい。やからかホラーでも爽やかな印象を受ける。これが乙一さんの小説の一番の魅力やと思う。
内に向く感情とそこから生まれる優しさ。感情の陰と陽の対照が、登場人物一人ひとりにあって、その複雑さと垣間見える純粋さが好き。
全てに愛が詰まっているけれど、「失はれる物語」はとくに愛を感じた。「マリアの指」はミステリー調やけれども、謎解きではなくて是非とも心情を追ってほしい。
好み: ★★★★★☆
ツナグ 辻村深月 著
あらすじ
”一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。”
The First Line
”風が吹いて、コートの襟に手をやる。”
辻村深月著、『ツナグ』を読みました。
心に温かいものが染みる小説。
「死」っていつやってくるかわからないからこそ、死別はいつまでも悔いが残ってしまうし、お互い生きているうちに会っとこうと頭では理解していてもこれは実際にその境遇にならないと理解できないこと。だからこそこの「使者」の存在が長きにわたって必要とされるんやろな。並々でない社会貢献。
死んでも愛してくれる人って実際いないもの。表面上では死んでも友達だよって言う人は若者に特に多いかも入れんけれど、そんなん実際その親友が死んだら、風化されると思うと悲しい。一生に一人でいいから、死んでも会いたいと思ってくれる人と出会えるなら、それだけで幸せなことですね。
この小説はもっと年取って周りの大事な人と死別したときに読むと、きっと違う感動を得られる。おそらく涙が止まらなくなる。僕にはまだツナグに依頼してまで会いたいと思う人はいない。
会いたい人には今のうちに会っておこ。
好み: ★★★☆☆☆
硝子のハンマー 貴志祐介 著
あらすじ
”日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には防弾ガラス。オフィスには厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが、難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。”
The First Line
”地下鉄の階段を上がると、眩しい朝の光に包まれた。”
貴志祐介著、『硝子のハンマー』を読みました。
小説2冊分に相当する内容の厚さ。でも、全くもって無駄なところがなくて面白かった。前半は密室の謎に挑む面白さ、後半はこの犯行に及ぶまでの経緯をたどる面白さがあった。
ここまで緻密でまた斬新な密室トリックは今まで出会ったことがなかった。王道ミステリの昔ながらな味とは違って、これは知識と現代の力がないとできない。犯人も…。しっかりと筋が通っていて、密室ものの小説を読むときにいつも感じる疎外感は今回は感じなかった。あの、密室の謎に途中からついていけなくなるあるあるは僕だけなんやろか。
人間の運命と欲を恨まざるを得ない内容。こんな運命に立たされたら自分やったらとても前に進もうとは思えん。それでも前に進むことは立派やけれど、一度欲にはまると抜け出すことは困難。人生大変ですね。
以前ドラマ化もされていたみたいで。なかなかに面白い内容やったから、今度は映像でも観てみよかな。
好み: ★★★☆☆☆
レインツリーの国 有川浩 著
あらすじ
きっかけは1冊の本。かつて読んだ、忘れられない小説の感想を検索した信行は、「レインツリーの国」というブログにたどり着く。管理人は「ひとみ」。思わず送ったメールに返事があり、ふたりの交流が始まった。心の通ったやりとりを重ねるうち、信行はどうしてもひとみに会いたいと思うようになっていく。しかし、彼女にはどうしても会えない理由があった――。不器用で真っ直ぐなふたりの、心あたたまる珠玉の恋愛小説。”
The First Line
”一体何の拍子でそんなことを調べてみようと思ったのかは自分でもわからない。”
有川浩著、『レインツリーの国』を読みました。
恋愛小説って自分と照らし合わせて、時に落ち込んだり時に憧れたりするものやと思うけれど、なぜか全くもって感情移入しなかった。
両者ともに言えることは、僕の好きな性格の人ではない。二人ともわがまますぎませんか。自己中心的な考え方は別にいいねんけれど、相手のこと考えられなさすぎ。読んでてずっと腹立たしかった。不器用な恋愛が設定やからまぁ小説としてはむしろ良作やねんけれども。
内容は個人によるとして、小説全体としてはとても好意がもてやすく、読みやすい。映画化もされているようで、女子高生が喰いつきそうな少し大人な物語。
メール長い人、基本的に僕は嫌いです。あと、自分ではあまり気づかないことやけれども、関西弁って恋愛には不向きやな。
好み: ★☆☆☆☆☆