東京物語 奥田英朗 著
あらすじ
”1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊……。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。”
The First Line
”すし詰めの満員電車で身をよじったらシェラのパーカーの布地がこすれ、シュルシュルと虫が鳴くような音がした。”
少し昔の匂いふんだんな、懐かしさを漂わすヒューマン小説。
仕事第一の時代なのか、みんなせわしない。現在よりもみんな肉食で、読んでてどこか落ち着かなかった。そして、出てくる登場人物みんな好まない。でも、内容自体は好み。
東京は冷たいとよく言われるけれど、本当にそうなのか。よそから来た人々の集合体が東京の社会であって、みんな温かい心を出せないだけなのでは。その姿がこの小説では顕著に描かれている。冷たく仕事命な外面と、個々のアイデンティティを失うまいともがく内面。とても大切なことを教えてくれる。初心を忘れそうなときは、是非とも読んでもらいたい。
現実の出来事の中で1日に焦点を当てて物語が進んでいるから、小説というよりドキュメンタリーの要素も感じられる。1日をピックアップしているからこそ、すべてがリアルに感じる。
東京という憧れの舞台に丸腰でいどみ、懸命に生きる姿は、これから上京する若者の勇気づけになるのでは。僕自身もその一人。死に物狂いで働きたいとは思わないけれど、こんな新鮮な人生を歩んで、独立し、成長出来たらなと思う。
90年代に生まれた僕は知らない80年代の世界。人間臭くて憧れる。この時代を駆けてみたいな。
好み: ★★★★☆☆