小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

サウスバウンド  奥田英朗 著

 

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)

 

 

サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)

サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)

 

 

あらすじ

〈上〉”小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わっているという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうでないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが……。――2006年本屋大賞2位にランキングした大傑作長編小説!”
〈下〉”元過激派の父は、どうやら国が嫌いらしい。税金など払わない、無理して学校に行く必要なんかないとかよく言っている。そんな父の考えなのか、僕たち家族は東京の家を捨てて、南の島に移住することになってしまった。行き着いた先は沖縄の西表島。案の定、父はここでも大騒動をひき起こして……。――型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、新時代の大傑作ビルドゥングスロマン、完結編!”

 

The First Line

〈上〉”中野ブロードウェイは上原二郎の通学路だ。”
〈下〉”頭に鉢巻のようなものをした美少女が、樹木の間で手招きしていた。”

 

奥田英朗著、『サウスバウンド』を読みました。

 

普段家族を題材とした小説あんま読まんけれど、ずっと気になっていたから読んでみた。あらすじに「傑作」とあると正直あまり面白くないという方程式が自分の中にあったけれど、これは面白かった。

型破りで破天荒な父親に翻弄される家族。子供の視点で描かれているから、大人の堅苦しさもなく、少年らしくうやむやに振り回される感じがとても面白くて、コミカルでさえある。大人のことはよくわからないけれど子どもなりの世界で必死に生きる二郎が、かわいそうながらもどこか諦めな態度が冷静で、過激な父親とは対照的。いい役。

都会では抑えられている過激な家族と南の島では解放されている自由な家族が、手に取るように見えてきて、映画を見ているかのように情景が浮かんできた。文章的にも惹きつけられた。すっと読めるし、大人と子どもの絶妙な心の動きも感じられて、極端やけれど等身大な内容やなと思った。

子供は親に逆らえないというのは何とも言えない不公平で、家族を振り回して自分勝手になる親なんていてはならないという考えは決して変わらないけれど、こんな父親がいたら楽しいやろうな。父親としては嫌いでも、人間としては好きになる。

この小説は、コミカルながらもとても深い。安全な時にしか味方にならない人間。自分の正しさを殺さない大切さ。都会至上主義の対極。当たり前への疑問。など。一郎の生きざまは、尊敬に値する。こんな大人に、少しでもなりたい。

僕は過激派ではありませんと最後に言っておきます。

 

 

好み: ★★★★★★