掏摸 中村文則 著
あらすじ
”東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎――かつての仕事をともにした闇の社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化!”
The First Line
”まだ僕が小さかった頃、行為の途中で、よく失敗をした。”
中村文則著、「掏摸」を読みました。
又吉さん絶賛の作家とあって興味はあったものの、なかなか本が見つからず今回ようやく読めた。
第一の印象は、とにかく暗い。ここまで暗い小説もなかなかない。これが中村文則さんの作風なんかな。そして、とても文学的。一見他にもありそうな小説やけれど、文章の深みがまったく違う。これが又吉さんが絶賛した所以なのかな。
スリ師を主人公とした内容で、言うなれば裏社会の日の当たらない部分やから当たり前と言えば当たり前やけれど、この小説は文章からも暗さがにじみ出ている気がした。でも、唯一人間と命に対する光だけは残されていて、その対比で余計に目立った。
運命って、残酷やなとこの本から改めて思った。日々の生活で主観的に言う「運命」なんて軽いもので、本当に感じる「運命」はもはや無意識にでも感じてしまうほど重くてどうしようもないものなんかも。人に自分の運命を支配された時、希望こそ残酷でそこには絶望しか残されていないのでしょう。
運命の赤い糸って感じられることはとても幸せですね。
好み: ★★☆☆☆☆