小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

秋の花  北村薫 著

 

秋の花 (創元推理文庫)

秋の花 (創元推理文庫)

 

 

あらすじ

”絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。ひとりが召され、ひとりは抜け殻と化したように憔悴の度を加えていく。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死―—親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である《私》は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円柴さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった……”

 

The First Line

”デパートの垂れ幕の上で躍るバザール、バーゲンという文字の前に、枕詞の《秋の》が付けられる頃、透き通った風が悪戯小僧のように街を駆け抜け、私達学生は長い休みと学園祭の間の落ち着かない授業を受ける。”

 

北村薫著、「秋の花」を読みました。

 

 

一応推理小説やのに、これほどまで軽やかな物語なかなかない。そこが《私》シリーズの醍醐味であり、僕が好きな理由。

3作目にして初の長編で、単調なのに飽きない。探偵役の円柴さんが出るタイミングに思わずびっくり。推理小説と呼べるのか?と思いつつも、面白い。物語全体がものすごく等身大で、そして推理小説独特の不気味さは皆無。

《私》の素直さや好奇心、そして自然な感性がとても魅力的。典型的な文系女子でありながらもそこに収まりきらない独特な世界観を持っていて、そして若干毒舌。昨今の大学生のような量産型の対極の姿。彼女が主人公だからこその、軽やかさもあるんでしょうね。そして、彼女が語り口だからこそ、繊細な描写が合うんでしょうね。北村薫さん、良いキャラクター作らはったわ。

僕は周りの友だちが死んだという経験がないから小説からしかその感情は得られないけれど、一概に悲しむだけではないんやろな。その友情が親密であればあるほど、やるせない。

 

 

好み: ★★★★☆☆