小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

風の中のマリア  百田尚樹 著

 

風の中のマリア (講談社文庫)

風の中のマリア (講談社文庫)

 

 

あらすじ

”命はわずか三十日。ここはオオスズメバチの帝国だ。晩夏、隆盛を極めた帝国に生まれた戦士、マリア。幼い妹たちと「偉大なる母」のため、恋もせず、子も産まず、命を燃やして戦い続ける。ある日出逢ったオスバチから告げられた自らの宿命。永遠に続くと思われた帝国に影が射し始める。著者の新たな代表作。”

 

The First Line

”マリアは木立の中を縫うように飛んだ。”

 

百田尚樹著、「風の中のマリア」を読みました。

 

 

今までにない視点の物語で、いつもとは違った楽しみ方ができた。この物語には人間は出てこないけれど、現実の人間社会と重ねてついつい読んでた。

使命から誇りを感じる一方でのアイデンティティの価値。恋を知り子を産むことをつつも戦うことを選ばざるを得ない宿命。羽化してたった30日しか生きられないのに、この期間で感じることがあまりにも多すぎて、だからこそ全うできる面もあるんやろな。読み終わって、すごく切なく感じた。

食物連鎖の中に生きる昆虫、そして自国のために戦う姿が、どうしても戦争と重なってしまう。著者も意図したことかもしれんけれど、人間と明らかに違うのは、やらなければ死ぬということ。利己主義で動いていないということ。そこが、虐殺の中にも生を感じられる。

人間の80年もある人生よりも、ひょっとしたらオオスズメバチの30日の方が濃いのかも。そう思わんような人生歩まなと思うと同時に、そこまで本能で必死になれる彼らに少し憧れたり。

昆虫は嫌いやけれど、これから、少し見る目は変わるかも。彼らにも彼らの一生がある。

 

 

好み: ★★★★★☆