小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

TUGUMI  吉本ばなな 著

 

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

 

 

あらすじ

”病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った――。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。”

 

The First Line

”確かにつぐみは、いやな女の子だった。”

 

吉本ばなな著、「TUGUMI」を読みました。

 

 

とても僕好みの物語。夏を舞台とするといつもノスタルジックな思いに包まれる一方で、どこか物語特有のわざとらしさに幻滅するけど、今回は全く不自然さを感じなかった。全てが生きている様。夏から秋への何とも言えない切なさと寂しさ、しみじみと伝わってくる。でもこの変化に敏感なのは、若さ故なことなんかも。

表現一つ一つに魅かれていく。すごく繊細で、言葉の力を強く感じた。特に海の描写はその時々の顔を鮮明に表現されていて、それぞれ違った表情で風景に溶け込んでいく。海を目の前にしたとき、今の僕はどんなことを思うかな。

つぐみの純粋さはとても人間らしくて、多少わがまますぎてもとても魅力に思える。おそらく、病弱な身体と強情な心の対照が引き出しているんやろな。裏切ることのない子犬にたとえられていたけれど、まさにの例え。

昨年、僕が9年ぶりに故郷へ帰ったときに、懐かしさで胸がいっぱいであったと同時に、どこかよそ者になってしまった自分にも気づいてた。たぶん、人は住む場所特有の空気を知らん間にまとっていて、違う地に行くと新鮮さと違和感を感じるのは無意識に違った空気を感じているからやと僕は思う。いくら過去が懐かしくて戻りたくても、一度違う空気をまとってしまうとなかなか溶け込めない。だから、今いる場所で精一杯生きるしかないんやろな。これが、昨年の帰省、そしてこの小説から共通して感じたこと。

 

 

好み: ★★★★★★