小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

家族八景 筒井康隆 著

あらすじ

”幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬ーー彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本である。”

 

The First Line 

”前庭の、赤い花が満開だった。”

 

筒井康隆著『家族八景』を読みました。

 

 

まるで昼ドラを見ているような、ドロドロとした夫婦感の関係を読んだ感覚になる小説。

8つの家族を見る七瀬の物語で、その幼さと目の前の大人なドロドロさが対照的で、大人の猥雑さが際立っていた。8種8用ではあるけれど、根底に根付くものは同じで、これは単なる物語上のことで片付かずに実際の現実の夫婦間にもあることなのかも。恐ろしい。

まだ結婚して家庭を持っていない身でこの小説を読んだから恐ろしいって感情が出たのかもしれんけれど、結婚して家庭を持ってからこの小説を読んだら、あるある話になるんかな。

『七瀬ふたたび』から七瀬シリーズに入って、その時にも感じたけれど、七瀬ってミステリアスな一面を持つ一方でとても単純で、行動が幼い。やることがどんどん裏目に出て、雰囲気がイマイチ掴みきれない。アホなん?って時々思ってしまうほど。

テレパスを持つ人は大変なのでしょう。もし自分の周りに持っている人がいたら、どーしよ。心の中読まれたくない。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

 

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 



植物図鑑 有川浩 著

あらすじ

お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。噛みません。躾のできたよい子ですーー。思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所て「狩り」する風変わりな同居生活が始まった。とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)”道草”恋愛小説。

 

The First Line

上司のお供で外回りだったその日は、アスファルトに濃い影の落ちる真夏日だった。

 

有川浩著『植物図鑑』を読みました。

 

 

少し前に映画化されたかで注目されていて、でもその時はミーハーになるからと今ごろ読む。

いかにも高校生が食いつきそうな、ほろ苦くも幸せな気分になれるちょっぴり大人な恋愛小説。だからか、少し物足りなさも。

道端に生えている雑草が季節と思い出を呼び込む、そんな視点あれば日々の風景がますます幸せになれそう。明日から、歩いてると少しは雑草に目を向けられるかな。

家の前で行き倒れてる人いて、助けるなんてそんな展開はまぁフィクションやからいいとして、樹みたいな好青年はなかなかおらん。だからこそ理想化してみんなに読まれたんかな。

野菜嫌いやからレシピの料理作る気はせんけど、料理そのものの意欲は少し高まった。料理男子、あり。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

 

植物図鑑 (幻冬舎文庫)

植物図鑑 (幻冬舎文庫)

 

 

 

異邦の騎士 島田荘司 著

あらすじ

”失われた過去の記憶が浮かび上がるにつれ、男はその断片的”事実”に戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺した男なのか?そしていま若い女との幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。記憶喪失の男を翻弄する怪事の背景は?蟻地獄にも似た罠から男は逃げられるか?希代の名探偵・御手洗潔の最初の事件。”

 

The First Line

”目が醒めてみるとベンチの上だった。”

 

 島田荘司著『異邦の騎士』を読みました。

 

 

御手洗潔の最初の事件ということで、金田一耕助の最初の事件である「本陣殺人事件」みたいな本格ミステリをイメージしてたけど、この小説は御手洗潔が脇役になった、一人の記憶喪失の男の物語。

この男がどんどん悲劇に見舞われて、でも思い出せず純粋な感情で新たな日々を過ごす様が愛おしい。とにかくいい人。

最後は切なくも、御手洗潔の推理披露で締めくくられる。少し飛躍しつつも、さすがは名探偵。そして、明かされる男の正体。これぞ原点。

物語のどの場面も無駄がなくて、全てが結末に繋がっていく。トラックも斬新。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

 

異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

 

 

 

ぼくらは夜にしか会わなかった 市川拓司 著

あらすじ

天文台赤道儀室で「幽霊」を見たと言う早川美沙子と、ぼくら級友は夜の雑木林へ出かけた。だが「幽霊」は現れなかった。彼女は目立ちたがり屋の嘘つきだと言われ、学校で浮いてしまう。怯えながらぎこちなく微笑む彼女に、心の底から笑ってほしくてぼくはある嘘をついたーー。(表題作)そっとあなたの居場所を照らしてくれる、輝く星のように優しい恋愛小説集。

 

The first line 

〈白い家〉"ぼくのほうが最初に気づいてた、と彼は言った。"

〈スワンボートのシンドバッド〉"植物園の駐車場に車を駐めて、そこから天文台までふたりで歩いた。"

〈ぼくらは夜にしか会わなかった〉"ぼくらは雑木林の斜面を登って天文台の中へと入った。"

〈花の呟き〉"不思議なことに、わたしは二十七のこの歳になるまで恋をしたことがなかった。"

〈夜の燕〉"男は走っていた。"

〈いまひとたび、あの微笑みに〉"彼女のことはいまでもよく憶えている。"

 

市川拓司著『ぼくらは夜にしか会わなかった』を読みました。

 

 

市川さんの小説はどれも切なくて、胸が苦しくなって、過去を思い出させる、ぼくにとったらもうどうしようもなくなる。今回の恋愛小説集も、どれも切なかった。

大きなテーマは、過去の想い、かな。それが結ばれたり離れたり叶わなかったり、、、どこか欠落している人々が、似た相手に心をゆるしていくそのじれったくなるほどゆっくりな恋愛。

「夜の燕」これはもうどうしようもなく胸が苦しくなる。こんなにも純情で一途で相手のために全てをぶつける姿は、恋愛の極致やと思う。こんなにも想ってくれたら、相手も幸せ。なのに、、、そして最後も、こんな終わり方か〜ってなる。余韻がすごい。

子供みたいな純情に触れたい方におすすめの小説。

幼心に叶うものはない。そして、過去には絶対に勝てない。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

ぼくらは夜にしか会わなかった (祥伝社文庫)

ぼくらは夜にしか会わなかった (祥伝社文庫)

 

 

 

生ける屍の死  山口雅也 著

あらすじ

ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った!この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか?自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるのか?著者会心の長編第一作、全面改稿による待望の文庫化。”

 

The First Line

”「あなたが犯人ですね、アンヘラさん」ネヴィル警部は、いたるところに血が飛び散った部屋の中を見渡しながら、いかにも気がなさそうに言った。”

 

 山口雅也著『生ける屍の死』を読みました。

 

 

めっちゃ長かった。ずっと読んでみたいと思っていた小説ついに読破。

この小説では、死者が甦るというミステリにおける禁じ手が使われていて、まず間違いなくこんな設定の小説は初めて読むし、今後出会うこともないと思う。

舞台はアメリカの田舎町で、題名から一見お堅い雰囲気かなとおもったけれど、海外独特のユーモアとコミカルなやりとりが満載やった。正直、どんなテンションで読めばいいか最後までわからなかった。

探偵役に似合わないパンク少年。おなじみのポンコツな推理をする警部。海外のミステリ読んでる感じしかしない。

この小説を読むと、死について考えざるを得なくなる。最初の100ページ、ほぼ死に関する教科書化としてる、

なんか、ようわからんかった。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆

 

生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)

 

 

窓の魚  西加奈子 著

あらすじ

”温泉宿で一夜を過ごす、2組の恋人たち。静かなナツ、優しいアキオ、可愛いハルナ、無関心なトウヤマ。裸の体で、秘密の心を抱える彼らはそれぞれに深刻な欠落を隠し合っていた。決して交わることなく、お互いを求め合う4人。そして翌朝、宿には一体の死体が残されるーー恋という得体の知れない感情を、これまでにないほど奥深く、冷静な筆致でとらえた、新たな恋愛小説の臨界点。”

 

The First Line

”バスを降りた途端、細い風が、耳の付け根を怖がるように撫でていった。”

 

 西加奈子著『窓の魚』を読みました。

 

 

西加奈子さんの小説を読むのは2作目やけれど、その文章の緻密さには前回同様圧倒される。ただ、子どもな僕にはまだ難しすぎた。

決定的な欠落を抱えている4人それぞれの視点から一夜を描かれていて、それぞれが奥深くにある闇を隠す。一夜明けて現れる死体が、闇の終着点であり、その謎がこの小説自体の闇。

西加奈子さんの文章表現力に感動。田舎ののんびりとした温泉地やのに、終始どんよりしている。それを表現されているのは何よりも圧倒的な文章力。すごいの一言。

恋愛って、表面上のことやなと最近思うことがあって、この小説はまさにそれを表しているのかなと思った。奥にあるのが愛で、これを持って恋愛している人ってそんなに多くないのかも。

欠落していない人はいないと思うけど、ここまで決定的な欠落があると、生きるのも死んどそう。でも、だから小説になる。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

窓の魚 (新潮文庫)

窓の魚 (新潮文庫)

 

 

クラインの壺  岡嶋二人 著

あらすじ

”200万円でゲームブックの原作を、謎の企業イプシロン・プロジェクトに売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。不世出のミステリー作家・岡嶋二人の最終作かつ超名作。”

 

The First Line

”実際、こんなものが証拠として役に立つのかどうか自信はないのだが、ともかく僕がイプシロン・プロジェクトと取り交わした契約書を、このノートの最初のページに貼りつけておくことにする。”

 

 岡嶋二人著『クラインの壺』を読みました。

 

 

前から気になってした小説、ついに読む。

岡嶋二人さんの小説って、とてもシンプルでスリルがあって、でもオチが弱いってイメージがあったけれど、この小説は最後まで楽しめる。超名作も納得。

物語を進めていくにつれてどんどん謎が深まって、その謎がまた謎を呼んで、いつしか自分自身がその世界に入り込んでる。一見ただの謎やけれど、自分で想像力を膨らますことで余計に謎にはまっていく。この小説は、フラットな気持ちで読んでほしい。決して構えないでほしい。そうすることで、最大限この世界を楽しめると思う。

今や世に出ているVR。でも、クライン2には到底及ばない。こんなゲームがもしできたら、、、

最後の結末、個人的にはけっこう好き。読者に委ねられてかつ表と裏がわからなくなっているこの感覚。

僕はこのゲームには向いてないかな、怖いし。

 

 

好み: ★★★★★☆

 

クラインの壷 (講談社文庫)

クラインの壷 (講談社文庫)

 

 

プシュケの涙  柴村仁 著

あらすじ

”夏休み、補習中の教室の窓の外を女子生徒が落下していった。自殺として少女の死がひそかに葬られようとしていたとき、目撃者の男子たちに真相を問い詰めたのは少女と同じ美術部の男子・由良だった。絵を描きかけのまま彼女が死ぬはずがない。平凡な高校生たちの日常が非日常に変わる瞬間を描く青春ミステリ。”

 

The First Line

”暑さ厳しい七月終わりのことだった。”

 

 柴村仁著『プシュケの涙』を読みました。

 

 

久しぶりにヒット作に出会えた感覚。すごく面白い小説やった。

高校の夏問い詰めたのはいう眩しすぎる舞台に、暗すぎる自殺。その一件を取り巻いて、高校生独特の複雑な心境がシンクロしていて、これでもかというぐらいに陰を生んでいる。そのコントラストが鮮やかすぎて、きれい。

この小説は、前半に自殺の一件が描かれていて、後半はその少女のお話。最後まで読んだとき、胸が苦しくなる。それぐらいに暗さと明るさの対比が絶妙。

男子生徒たちの葛藤、少女の心の闇、そして由良の純粋さ。それらを夏の雰囲気に包んで、これでもかというぐらいに輝かす。眩しすぎる。

高校生って、こんな複雑やったんや。自分の高校生活はもっと単純やったと思う。終始楽しかったし。でも、たぶん今より心は複雑で、闇もあって、人間関係に悩まされて、それは小説も現実も同じなんかな。それを言語化しているかどうかの違い。

高校生に戻りたい。

 

 

好み: ★★★★★★

 

プシュケの涙 (講談社文庫)

プシュケの涙 (講談社文庫)

 

 

カクレカラクリ  森博嗣 著

あらすじ

”郡司朋成と栗城洋輔は、同じ大学に通う真知花梨とともに鈴鳴村を訪れた。彼らを待ち受けていたのは奇妙な伝説だった。天才絡繰り師、磯貝機九朗は、明治維新から間もない頃、120年後に作動するという絡繰りを密かに作り、村のどこかに隠した。言い伝えが本当ならば、120年めに当たる今年、それが動きだすという。二人は花梨たちの協力を得て、絡繰りを探し始めるのだが……。”

 

The First Line

”真知花梨は階段教室が好きだ。”

 

森博嗣著『カクレカラクリ』を読みました。

 

 

理系派の小説という印象の森博嗣さんの小説。今回は工学がメインで絡繰りの謎を解き明かす物語。ただ、初めに言っておくと、今回は死人が出てこない。つまりは、明るいミステリ。

この小説は絡繰りを探すというとてもシンプルな物語で、その中に冒険があったり謎があったり、そして最後には…。児童文学を読んでいるようなワクワク感があって、また夏休みを舞台としているだけあって童心に戻れるそんな爽やかな小説。小学生に読ませてもけっこう楽しめるかも。

登場人物もみんな個性的で、そして極端な悪人もいなくて、田舎独特の風土のなかのびのびと生活している感じがとても伝わってきた。田舎の夏、いいな。

絡繰りって、現代でいうプログラミングそのものやなととても思った。僕自身が今プログラミングを勉強していて日々苦戦していて、でもそのアルゴリズムと絡繰りのアルゴリズムはとても似ていることには気づいた。プログラミングにはまだそんなに魅力を感じてはいないけれど、絡繰りって素敵。興味がわいた。昔の人ってすごいな。

廃墟好きの僕にとって、物語の発端となった工場がとても気になります。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

カクレカラクリ (講談社ノベルス)

カクレカラクリ (講談社ノベルス)

 

 

白いへび眠る島  三浦しをん 著

あらすじ

”高校最後の夏、悟史が久しぶりに帰省したのは、今も因習が残る拝島だった。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。言うのもはばかれる怪物『あれ』が出た、と。不思議な胸のざわめきを覚えながら、悟史は「持念兄弟」とよばれる幼なじみの光市とともに『あれ』の正体を探り始めるが—―。十八の夏休み、少年が知るのは本当の意味の自由か――。”

 

The First Line

”船体に重くぶつかる波が、ゴオンゴオンと背中に振動を伝えてきた。”

 

三浦しをん著『白いへび眠る島』を読みました。

 

 

田舎の自然を背景にした青春小説なんかなと思って読んでみたけれど、徐々に自分の間違いに気づいてくる。そしてクライマックス、いきなり雰囲気が変わる。この小説は、文学としての青春小説というよりは絵のない友情漫画を読むスタンスの方がいいかも。

この島は島独特の温かさがあまりなくて、けっこうドライ。なんやろう、全体的に決して明るくない。陰湿というか、堅苦しいというか。

 そして悟史のはっきりとしなささ。そういう年頃とは思うけれど、島で暮らす幼なじみの光市とは対照的。だからこその絆なんかもしれんけれども。

本当の自由とは。「逃げ出したい場所があって、いつでも待っていてくれる人がいること」と言う光市。少しわかるかも。僕も地元は好きやけれど、どこかぬるくて、だから上京したけれど、でも帰る場所があるからこその自由な選択ができていると思っている。帰りたいけど帰りたくない。

 

 

好み: ★☆☆☆☆☆

 

白いへび眠る島

白いへび眠る島