小説の浮かぶ空

日々読んでいく小説の感想を自由気ままに綴っていきます。

そのときは彼によろしく  市川拓司 著

 あらすじ

”小さなアクアプラント・ショップを営むぼくの前に、ある夜、一人の美しい女性が現れる。店のドアに貼ってあったアルバイト募集のチラシを手にして――。採用を告げると彼女は言った。「私住むところがないの。ここに寝泊まりしてもいい?」出会うこと、好きになること、思いやること、思い続けること、そして、別れること……。この小説に書かれているのは、人間の持つ数多くの優しさと心の強さです。ミリオンセラー『いま、会いにゆきます』の著者による、最高のロマンチック・ファンタジー!”

 

The First Line

”彼はひどく風変わりな少年だった。”

 

市川拓司著、『そのときは彼によろしく』を読みました。

 

 

人生で出会うエッセンスすべてが詰まった小説。

はじめあらすじを読んだときは、正直くさい恋愛ものかなと思ってたけれど、そんな薄いものとは全然違った。読んでいて何か大切なことに気づかされる、また思いださせる、そんな濃さのある小説だった。

この小説に書かれているやさしさだったり相手を想い続づける強さだったりさえあれば、幸せな人生が送れると思う。この小説はだから幸せに満ち溢れている。お金では決して変えない、人間の幸せの真髄に触れたような感覚。

「あの世界」を持つ人間はそれだけで持たない人間よりは幸せだと思う。僕は確実に持っている。周りの人以上に。だから過去ばっかり見ている。「あの世界」の入口は当たるところにあるけれど、それに気づくのはその時が過ぎてからなんかな。そこがもどかしい。

いつまでも一つの恋をひきづるなんて女々しいって言われるかもしれないけれど、そんなこと決してない。一度想ってしまった事を忘れる方が残酷で非人間的。

自分の好きなことを成し遂げる信念、夢を持ち続ける魅力、人を想い続け待ち続ける強さ、過去を大事にする純粋さ、これらを肝に銘じてこれからも生きたい。

 

 

好み: ★★★★★★

 

そのときは彼によろしく (小学館文庫)

そのときは彼によろしく (小学館文庫)

 

 

失はれる物語  乙一 著

 あらすじ

”目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。”

 

The First Line

「Calling You」”わたしはおそらくこの高校で唯一の、携帯電話を持っていない女子高生だ。”

「失はれる物語」”妻は結婚するまで音楽の教師をしていた。”

「傷」”オレの通う小学校には特殊学級というのがあって、問題のある生徒が何人か集められていた。”

手を握る泥棒の物語」”古い温泉宿の、伯母とその娘が宿泊している部屋でのことだった。”

「しあわせは子猫のかたち」”家を出て、一人暮らしをしたいと思ったのは、ただ一人きりになりたかったからだ。”

「ボクの賢いパンツくん」”先生が算数の時間にボクをゆびさしてしつもんしたけど、ボクはそれにこたえられなくて席を立ったままうつむいていたんだ。”

「マリアの指」”「恭介、私はどうしたらいい?」”

「ウソカノ」”放課後の教室でいつものようにみんなの馬鹿話に参加していたわけだが、壁の時計を見て僕は立ち上がった。”

 

 

乙一さん著、『失はれる物語』を読みました。

 

 

世にも奇妙で少し不思議な世界。その現実とのわずかな差の世界観やからなんでもありになる面白さ。

一つ一つの短編に長編並みの濃さがある。乙一さんのジャンルと言えばやっぱりホラーのイメージがある。でも実際には設定にホラー要素が少し使われることはあってもジャンルは多彩で、ホラー小説を読むときの緊迫感はいい意味で全くと言っていいほどない。多彩すぎて、この小説内の物語ひとつひとつ色が違って、全く飽きない。

主人公は、子どもが中心。その特有の視点と感情描写がとてもきれい。やからかホラーでも爽やかな印象を受ける。これが乙一さんの小説の一番の魅力やと思う。

内に向く感情とそこから生まれる優しさ。感情の陰と陽の対照が、登場人物一人ひとりにあって、その複雑さと垣間見える純粋さが好き。

全てに愛が詰まっているけれど、「失はれる物語」はとくに愛を感じた。「マリアの指」はミステリー調やけれども、謎解きではなくて是非とも心情を追ってほしい。

 

好み: ★★★★★☆

 

失はれる物語 (角川文庫)

失はれる物語 (角川文庫)

 

 

ツナグ  辻村深月 著

あらすじ

”一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。”

 

The First Line

”風が吹いて、コートの襟に手をやる。”

 

辻村深月著、『ツナグ』を読みました。

 

 

心に温かいものが染みる小説。

「死」っていつやってくるかわからないからこそ、死別はいつまでも悔いが残ってしまうし、お互い生きているうちに会っとこうと頭では理解していてもこれは実際にその境遇にならないと理解できないこと。だからこそこの「使者」の存在が長きにわたって必要とされるんやろな。並々でない社会貢献。

死んでも愛してくれる人って実際いないもの。表面上では死んでも友達だよって言う人は若者に特に多いかも入れんけれど、そんなん実際その親友が死んだら、風化されると思うと悲しい。一生に一人でいいから、死んでも会いたいと思ってくれる人と出会えるなら、それだけで幸せなことですね。

この小説はもっと年取って周りの大事な人と死別したときに読むと、きっと違う感動を得られる。おそらく涙が止まらなくなる。僕にはまだツナグに依頼してまで会いたいと思う人はいない。

会いたい人には今のうちに会っておこ。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

ツナグ (新潮文庫)

ツナグ (新潮文庫)

 

 

硝子のハンマー  貴志祐介 著

 あらすじ

”日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には防弾ガラス。オフィスには厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが、難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。”

 

The First Line

”地下鉄の階段を上がると、眩しい朝の光に包まれた。”

 

貴志祐介著、『硝子のハンマー』を読みました。

 

 

小説2冊分に相当する内容の厚さ。でも、全くもって無駄なところがなくて面白かった。前半は密室の謎に挑む面白さ、後半はこの犯行に及ぶまでの経緯をたどる面白さがあった。

ここまで緻密でまた斬新な密室トリックは今まで出会ったことがなかった。王道ミステリの昔ながらな味とは違って、これは知識と現代の力がないとできない。犯人も…。しっかりと筋が通っていて、密室ものの小説を読むときにいつも感じる疎外感は今回は感じなかった。あの、密室の謎に途中からついていけなくなるあるあるは僕だけなんやろか。

人間の運命と欲を恨まざるを得ない内容。こんな運命に立たされたら自分やったらとても前に進もうとは思えん。それでも前に進むことは立派やけれど、一度欲にはまると抜け出すことは困難。人生大変ですね。

以前ドラマ化もされていたみたいで。なかなかに面白い内容やったから、今度は映像でも観てみよかな。

 

 

好み: ★★★☆☆☆

 

硝子のハンマー (角川文庫 き 28-2)

硝子のハンマー (角川文庫 き 28-2)

 

 

レインツリーの国  有川浩 著

  あらすじ

きっかけは1冊の本。かつて読んだ、忘れられない小説の感想を検索した信行は、「レインツリーの国」というブログにたどり着く。管理人は「ひとみ」。思わず送ったメールに返事があり、ふたりの交流が始まった。心の通ったやりとりを重ねるうち、信行はどうしてもひとみに会いたいと思うようになっていく。しかし、彼女にはどうしても会えない理由があった――。不器用で真っ直ぐなふたりの、心あたたまる珠玉の恋愛小説。”

 

The First Line

”一体何の拍子でそんなことを調べてみようと思ったのかは自分でもわからない。”

 

有川浩著、『レインツリーの国』を読みました。

 

 

恋愛小説って自分と照らし合わせて、時に落ち込んだり時に憧れたりするものやと思うけれど、なぜか全くもって感情移入しなかった。

両者ともに言えることは、僕の好きな性格の人ではない。二人ともわがまますぎませんか。自己中心的な考え方は別にいいねんけれど、相手のこと考えられなさすぎ。読んでてずっと腹立たしかった。不器用な恋愛が設定やからまぁ小説としてはむしろ良作やねんけれども。

内容は個人によるとして、小説全体としてはとても好意がもてやすく、読みやすい。映画化もされているようで、女子高生が喰いつきそうな少し大人な物語。

メール長い人、基本的に僕は嫌いです。あと、自分ではあまり気づかないことやけれども、関西弁って恋愛には不向きやな。

 

 

好み: ★☆☆☆☆☆

 

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

 

 

螺旋館の殺人  折原一 著

  あらすじ

”世間をアッといわせる新作を久しぶりに発表すべく、山荘にこもって執筆を開始した老作家のもとに、作家志望の美貌の女性が、書き上げたばかりの自らの原稿を持って訪れる。すべての謎は、ここから始まった!奇妙極まる倒錯事件、そして殺人。精緻な多重トリックが冴える奇想天外な傑作長編ミステリー。”

 

The First Line

”――田宮竜之介氏に捧げる”

 

折原一著、『螺旋館の殺人』を読みました。

 

 

叙述トリックといえば折原一さん、ということで久しぶりに読んでみた。

正直叙述トリックが使われていることを前提として読んでいると、こちらとしてもどうしても構えるからハードルが上がりがちにはなってしまうところやけれど、この小説のトリックはそのハードル通りの高さ。決して高すぎず、けれど期待値を下回ることも決してない。

多重トリックそのもので、何重にもコーティングされているイメージ。一見わかりやすいけれど、それすら、、、最初の1行目を見落とさずに読めば、トリックを見破れるかも。でも無理かな。

この小説は何より構成を楽しむもの。内容ももちろん面白かったけれど、叙述トリックを存分に楽しんでもらいたい。

老人になっても、心躍る人生でありたい。

 

 

好み: ★★★★☆☆

 

螺旋館の殺人 (講談社文庫)

螺旋館の殺人 (講談社文庫)

 

 

いつまでも記憶に残るおすすめ小説16選 in 2016

はじめまして。読書が好きな大学生です。大学生という膨大な時間の中、日々小説の世界に飛び込んでいます。

昨年は100冊以上の小説と出会い、今までで一番多くの物語に触れることができた年となりました。

そんな僕が今回、昨年読んだ100冊以上の小説の中から記憶に残る16冊を紹介したいと思います。本当は10選にするつもりでしたが、どうしても絞り切ることができませんでした。そんな16選です。

選定条件

  • 2016年に読んだ小説に限定
  • 2017年となった現在でも記憶に残っている小説
  • ジャンル、著者の縛りは無し
  • 他の推薦を一切反映しない独断と偏見

尚、紹介の順番はランキングではなく僕が読んだ順番です。また、僕の感想にはネタバレは書いてありませんのでご安心ください。

では、早速ですがおすすめの16冊を紹介していきます。

 

1.夏と花火と私の死体 乙一

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

 
  あらすじ

九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく――。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々と訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作。

The First Line

九歳で、夏だった。


その日、家の門に辿り着いた政義の見たものは優子の炎に包まれた姿でした。

ホラー小説のジャンルには入るんだろうけれど、グロテスクな純ホラーとは全然違う。幼少の夏を思い出させてくれる、そんな爽やかでノスタルジックな雰囲気で終わると思いきや、さすがはホラー小説。このコントラストにやられた。幼少時代の視点に戻って読めば、きっと満足できるはず。

 

 

2.サヨナライツカ 辻二成 著

サヨナライツカ (幻冬舎文庫)

サヨナライツカ (幻冬舎文庫)

 
 あらすじ

「人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと愛したことを思い出すヒトとにわかれる。私はきっと愛したことを思い出す」。”好青年”とよばれる豊は結婚を控えるなか、謎の美女・沓子と出会う。そこから始まる激しくくるおしい性愛の日々。二人は別れを選択するが二十五年後の再会で……。愛に生きるすべての人に捧げる渾身の長編小説。

The First Line

第一印象は信用できない。

はじめ読み終わったとき、確かに面白ったけれどそこまで評価は高くなかった。でもこの小説がすごいのはその余韻。読んでからしばらくたってもこの物語を思い出すときがあって、もう一度読みたい気になる。とても大人な恋愛小説。こんな燃え上がる恋できる人生絶対悔いないなと思う。

 

 

3.青の炎 貴志祐介

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

 
 あらすじ

櫛森秀一は、湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭を踏みにじる闖入者が現れた。母が10年前、再婚しすぐに別れた曾根だった。曾根は秀一の家に居座り、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを……。日本ミステリー史に残る感動の名作。

The First Line

薄曇りの空には、数多くの鳶やカラスが、乱舞していた。

いわゆる謎解きのミステリーではなくて、「逃げ」のミステリー。どんよりとした天気の中青の炎に燃える秀一の憎悪と切なさ。読んでいて秀一の賢さに感心しつつも、未熟さについつい同情してしまう。ミステリーではあるけれど、秀一の心情を味わってほしい一冊。最後の1行は決して先に見ないように。そこに秀一の想いがつまっている。

 

 

4.色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)
 
 あらすじ

多崎つくるは鉄道の駅をつくっている。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。理由も告げられずに――。死の淵を一時さ迷い、漂うように生きていたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時何が起きたのか探り始めるのだった。

The First Line

大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、多崎つくるはほとんど死ぬことだけを考えて生きていた。

友人のかけがえのなさに気づけるきっかけとなるかも。人間の何気なくも普遍的な悩みと向き合うつくるを、自分と照らし合わせる人も少なくないのでは。誰にでもつくるのような感情を抱いた経験があるはず。自分の個性とは?自分は孤独とどう向き合うのか?村上春樹さん独特の雰囲気を存分に味わえる一冊。

 

 

5.蒲公英草紙 恩田陸

蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)

蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)

 
 あらすじ

”青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れられるちから、未来を予知するちから……、不思議な能力を持つという常野一族。槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。”

The First Line

”いつの世も、新しいものは船の漕ぎだす海原に似ているように思います。”

近代文学を読んだような余韻に浸れる。今回は1世紀も前が舞台となる常野シリーズ。物質的な豊かさがなかったこの時代に、現在と比べてあったものは心の豊かさ。とても穏やかにそして優しさに包まれた雰囲気の中、常野一族もみんなと混ざって健やかに懸命に生きる姿は、心の乏しさ故に忘れていた大切な何かを思い出させてくれる。

 

 

6.ねじまき鳥クロニクル 村上春樹

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

 
 あらすじ

〈第1部 泥棒かささぎ編〉「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問しないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)


〈第2部 予言する鳥編〉「今はまちがった時間です。あなたはここにいてはいけないのです」しかし綿谷ノボルによってもたらされた深い切り傷のような痛みが僕を追いたてた。僕は手をのばして彼を押し退けた。「あなたのためです」と顔のない男は僕の背後から言った。「そこから先に進むと、もうあとに戻ることはできません。それでもいいのですか?」(本文より)


〈第3部 鳥刺し男編〉僕の考えていることが本当に正しいかどうか、わからない。でもこの場所にいる僕はそれに勝たなくてはならない。これは僕にとっての戦争なのだ。「今度はどこにも逃げないよ」と僕はクミコに言った。「僕は君を連れて帰る」僕はグラスを下に置き、毛糸の帽子を頭にかぶり、脚にはさんでいたバットを手に取った。そしてゆっくりとドアに向かった。(本文より)

The First Line

台所でスパゲティーをゆでているときに、電話がかかってきた。

3部作にもわたる村上春樹さん著の名作。圧倒的な密の濃さ。一見妻の失踪という単純なきっかけではあるけれど、そこからの展開はまさに村上ワールド。近くも感じるし異次元にも感じる世界観。読む人にとってまったく違った物語になると思う。「僕」とは?「ねじまき鳥」とは?一体なんなのか。答えは決して一つではない。

 

 

7.占星術殺人事件 島田荘司

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)
 
 あらすじ

星座に従い、六人の処女の肉体から必要な各部をとり、完成美をもつ「女」を合成する、という無気味な遺言状。そして一ヵ月後、六人の女性が行方不明となり、日本各地からバラバラ死体で発見された…。奇想天外な構想、驚くべき大トリックと猟奇殺人の真相!名探偵・御手洗潔のデビュー作として、平成「本格」時代招聘の先駆となった、記念碑的名作!

 The First Line

これは私の知る限り、最も不思議な事件だ。

これこそ日本版シャーロック・ホームズかな。安楽椅子探偵と助手が事件に挑む姿勢は、場所と年代が違うだけでまさしく古典もの。40年以上未解決の事件は不可解な極まりなくて、御手洗潔も苦戦しつつも、するどい洞察力と推理力で解決に導く。その探偵ぶりは圧巻で、ミステリファンをきっと納得させることでしょう。

 

 

8.TUGUMI 吉本ばなな

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

 
 あらすじ

病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った――。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。

The First Line

確かにつぐみは、いやな女の子だった。

夏から秋へと移りゆく切ない季節の雰囲気と、少年少女の無垢で透明だからこその感情とが絶妙に合わさっていて、物語がとてもきれい。表現一つ一つにも力があって、どんどん魅かれていく。病弱ながらもわがままで強気なつぐみから、元気すらもらえる。大人には少々眩しすぎる。

 

 

 9.塩の街 有川浩

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

 
 あらすじ

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女、秋庭と真奈。世界の片隅で生きる2人の前には、様々な人が現れ、消えていく。だが――「世界とか、救ってみたくない?」。ある日、そそのかすように囁く者が運命を連れてやってくる。『空の中』『海の底』と並ぶ3部作の第1作にして、有川浩のデビュー作!

The First Line

両肩にリュックの肩紐がきつく食い込む。

実に多くの要素が含まれた小説。死別、恐怖、安心、愛、恋、絆…。世界が塩で埋め尽くされるというSF設定の中で、残された人々が起こす行動は本当に人間の欲そのもので、よくも悪くもそれがとても純粋。この小説のジャンルをSFととらえるか恋愛ととらえるかは読者によっても異なる。

 

 

 10.風の中のマリア 百田尚樹

風の中のマリア (講談社文庫)

風の中のマリア (講談社文庫)

 
 あらすじ

命はわずか三十日。ここはオオスズメバチの帝国だ。晩夏、隆盛を極めた帝国に生まれた戦士、マリア。幼い妹たちと「偉大なる母」のため、恋もせず、子も産まず、命を燃やして戦い続ける。ある日出逢ったオスバチから告げられた自らの宿命。永遠に続くと思われた帝国に影が射し始める。著者の新たな代表作。

 The First Line

マリアは木立の中を縫うように飛んだ。

この小説には人間は出てこなくて、羽化してからたった30日しか生きられないオオスズメバチの物語。限られた命ある限り役割を全うしつつも、自身のアイデンティティを問うハチたち。人間から見るとすぐに駆除されるちっぽけな1つの巣でも、彼女らには永遠と思われる帝国。彼女たちの生きざまをぜひとも読んでもらいたい。

 

 

11.冷たい校舎の時は止まる 辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

 
あらすじ

 〈上〉雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヶ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう。


〈下〉学園祭のあの日、死んでしまった同級生の名前を教えてください――。「俺たちはそんなに薄情だっただろうか?」なぜ、「ホスト」は私たちを閉じ込めたのか。担任教師・榊はどこへ行ったのか。白い雪が降り積もる校舎にチャイムが鳴ったその時、止まったはずの時計が動き出した。薄れていった記憶、その理由とは。

The First Line

落ちる、という声が本当にしていたかどうか。

最初の方は読み進めても全くもって先がみえなくて、まさに霧がかった状態。ただひたすらに読み進めて行くうちにますます不可思議な世界に引きずり込まれていく。その分読後の余韻はなかなか治まらなかった。ホラーテイストも若干ありつつ青春テイストもありつつ。懐かしの校舎が舞台だからノスタルジックな想いにも浸れるのでは。

 

 

12.悪の教典 貴志祐介

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

 
 あらすじ

〈上〉晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき――。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。


〈下〉圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による狂気の殺戮が始まった!ミステリー界の話題を攫った超弩級エンターテインメント。

The First Line

混沌とした夢の中にいた。

まさしく一気読みをした。サイコホラー小説独特の緊迫感は手に取るように伝わってくる。蓮実先生の頭のキレ具合がまたすごくて、こんなサイコが周りにいたらおそらく生き残れないと思う。上巻の穏やかさと下巻の混沌さ、そのギャップを楽しんでもらいたい。性善説性悪説か、それによってこの小説の見方も若干変わるかな。Excellent.

 

 

13.陽だまりの彼女 越谷オサム

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

 
 あらすじ

幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、僕には計り知れない過去を抱えているようで――その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさも、すべてつまった完全無欠の恋愛小説。

The First Line

何度確かめても、受け取った名刺には「渡来真緒」とある。

とても明るくて、読んでいるこっちまで幸せになるほどに幸せに満ちた小説。こんなカップル理想だし、こんな風に好きな人とずっと一緒にいられたら毎日楽しいだろうなとうらやましさが積もっていく。でも、結末が意外過ぎて…。切なさもありながら、恋愛のすばらしさをこれでもかと味わってみては。

 

 

14.きいろいゾウ 西加奈子

きいろいゾウ (小学館文庫)

きいろいゾウ (小学館文庫)

 
 あらすじ

夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった――。

The First Line

とおいとおい、空のむこう、雲をこえて、かぜをすりぬけて、そのもっともっとむこうに、一頭のゾウがすんでいました。

陽と陰のコントラストが絶妙で、それぞれに合った文章と描写がとても惹きつけられる。所詮文字を追っているだけなのに、明らかに他の小説読むときより絵が浮かんでくる。まるで絵本を読んでいるみたいな感覚。この自然体でありながらも陰を抱える、ほのぼのとする夫婦像は憧れる。読後はものすごく幸せな気分になる。

 

 

15.深夜特急  沢木耕太郎

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

 
 あらすじ

〈1〉インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗り合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ!


〈2〉香港・マカオに別れを告げ、バンコクへと飛んだものの、どこをどう歩いても、バンコクの街も人々も、なぜか自分の中に響いてこない。〈私〉は香港で感じた熱気の再現を期待しながら、鉄道でマレー半島を南下し、一路シンガポールへと向かった。途中、ペナンで娼婦の館に滞在し、女たちの屈託ない陽気さに巻き込まれたり、シンガポールの街をぶらつくうちに、〈私〉はやっと気づいた。


〈3〉風に吹かれ、水に流され、偶然に身をゆだねる旅。そうやって〈私〉はやっとインドに辿り着いた。カルカッタでは路上で突然物乞いに足首をつかまれ、ブッダガヤでは最下層の子供たちとの共同生活を体験した。ベナレスでは街中で日々演じられる生と死のドラマを眺め続けた。そんな日々を過ごすうちに、〈私〉は自分の中の何かから、一つ、また一つと自由になっていった――。


〈4〉パキスタンの長距離バスは、凄まじかった。道の真ん中を猛スピードで突っ走ったり、対向車と肝試しのチキン・レースを展開する。そんなクレイジー・エクスプレスで、〈私〉はシルクロードを一路西へと向かった。カブールではヒッピー宿の客引きをしたり、テヘランではなつかしい人との再会を果たしたり。前へ前へと進むことに、〈私〉は快感のようなものを覚えはじめていた――。


〈5〉アンカラで〈私〉は一人のトルコ人女性を訪ね、東京から預かってきたものを渡すことができた。イスタンブールの街角では熊をけしかけられ、ギリシャの田舎町では路上ですれ違った男にパーティに誘われて――。ふと気がつくと、あまたの出会いと別れを繰り返した旅もいつのまにか〔壮年期〕にさしかかり、〈私〉は、旅をいつ、どのように終えればよいのか、考えるようになっていた――。


〈6〉イタリアからスペインへ回った〈私〉は、ポルトガルの果ての岬・ザグレスで、ようやく「旅の終わり」の汐どきを掴まえた。そしてパリで数週間を過ごしたあと、ロンドンに向かい、日本への電報を打ちに中央郵便局へと出かけたが—―。Being on the road――ひとつの旅の終りは、新しい旅の始まりなのかもしれない。旅を愛するすべての人々に贈る、旅のバイブル全6巻、ここに完結!

 The First Line

ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐずしてはいられない、と思ってしまったのだ。

この小説を読めばまず間違いなく旅への衝動に駆られる。この小説をバイブルとするバックパッカーも多いのでは。英語がしゃべれなくたって、お金がなくたって、人間決意をもって世界に出ればなんとかなる。世界の広さと旅する楽しさ、そしてやりたいことをやるすばらしさを学ぶことができるそんな一冊。東南アジアは特に刺激的。

 

 

16.そして二人だけになった 森博嗣

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

 
 あらすじ

全長4000メートルの海峡大橋を支える巨大なコンクリート塊。その内部に造られた「バルブ」と呼ばれる閉鎖空間に科学者、医師、建築家など6名が集まった。プログラムの異常により、海水に囲まれて完全な密室と化した「バルブ」内で、次々と起こる殺人。残された盲目の天才科学者と彼のアシスタントの運命は……。反転する世界、衝撃の結末。知的企みに満ちた森ワールド、ここに顕現。

The First Line

僕は海が嫌いだ。

題名から何となくの方向性は理解できると思う。実際そうで、あの「そして誰もいなくなった」と同じ密室仕掛け。一見普通のミステリではあるけれど、この小説のすごいところは果てしない結末。クライマックスかと思いきや、さらにその先に…。トリックもさることながら、この今までにない結末をぜひとも味わってほしい。

 

 

以上が、僕が昨年読んだ小説から選んだおすすめの小説16選でした。

これほどの面白い小説と出会えることができて、僕は幸せ者だと思います。今までに読んだ小説すべてを含めると、紹介したい小説はもっとあります。また機会があれば…。

最後に、このブログを読んでくださった皆さんが一冊でも多く記憶に残る面白い小説と出会えることを心より願っております。

終末のフール  伊坂幸太郎 著

 

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

 

 あらすじ

”八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、過去の復讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。”

 

The First Line

”そろそろ行くぞ、とベンチから立った。”

 

伊坂幸太郎著、『終末のフール』を読みました。

 

 

世界の終りってこんな感じなんかな。

今ある当たり前の日常に、突然期限が設けられたらどうなるんやろ。今まで洋画のSF映画でしか終末を観たことがなくて、当然ながら理解できなかったけれど、この小説は本当に起こりそうで、だからこそ移入できる。終わりがないのもまた良い。

たった一つの団地が舞台。この限定的な場所内での人間模様だからこそ、その温かさが感じられた。これが全国各地に焦点当てられていたら正直あまり面白くなかったと思う。みんながそれぞれの人生に直接的間接的に関わりあって、残りの3年を生きようとする姿は、絶望ながらも希望が垣間見えた。終末だからこそ日常では見えないものが見えたりする。

最後の抵抗ぐらい追い込まれないと、人間本当にやりたいことなんてできないんやろね。普段からやりたいことをやっていると思い込んでいる人には、この小説は理解できないと思う。

僕の人生があと3年やったら、、、やりたいことが正直あまりないけれど、好きな人と結婚して、ありきたりで平凡な生活を送りたいな。そして、今まで僕の人生に関わってくれたすべての人ともう一度再会したいかな。間違っても殺人願望はない。

 

 

好み: ★★★★★☆

頼子のために  法月綸太郎 著

 

頼子のために (講談社文庫)

頼子のために (講談社文庫)

 

 

あらすじ

”「頼子が死んだ」。十七歳の愛娘を殺された父親は、通り魔殺人で片づけようとする警察に疑念を抱き、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺、自らは死を選ぶ――という手記を残していた。手記を読んだ名探偵法月綸太郎が、事件の真相解明にのりだすと、やがて驚愕の展開が!精緻構成が冴える野心作。”

 

The First Line

”一九八九年八月二十二日 頼子が死んだ。”

 

法月綸太郎著、『頼子のために』を読みました。

 

 

特に読んでみようと思って手に取ったわけではなかったからさらっと読むはずが、思いのほか読み入ってた。

一言でいえば王道のミステリーで、2時間サスペンスドラマでありそうな内容。特に斬新なトリックが使われているわけでもなく、でも満足できる犯人当て。この小説は何より動機がカギとなっていて、人物の心情を味わう内容かな。犯人当ては二の次でも全然良い。

親が子を愛するベースと、歪む心情。「頼子のために」というタイトルはシンプルでありながら小説の色を絶妙に表している。みんなそれぞれの心情が複雑に絡み合っていて、愛情一つで片づけられるものではない。もっと直球な愛情さえあれば、、、しっかりと完結はするけれど、後味が悪い。

淡い恋愛も垣間見えて、やっぱり恋愛は難しいなと感じた。本筋とは少しずれているけれど。

権力の圧力こわいですね。

 

 

好み: ★★★★★☆

69  村上龍 著

 

69 sixty nine (文春文庫)

69 sixty nine (文春文庫)

 

 

あらすじ

”1969年、東京大学は入試を中止した。ビートルズのメロディーが流れ、ローリング・ストーンズも最高のシングルを発表し、ヒッピーが愛と平和を訴えていた。僕は九州の西の端の、基地の町の高校三年生。その佐世保北高校がバリケード封鎖された。やったのは……。もちろん、僕とその仲間たち。無垢だけど、爆発しそうなエネルギーでいっぱいの、明るくキケンな青春小説。”

 

The First Line

”一九六九年、この年、東京大学は入試を中止した。”

 

村上龍著、「69」を読みました。

 

 

ここ最近、活動家が関係する小説に出会う頻度が高まっている。偶然です。

前々から気になっていた青春小説で、今回手にしてみた。なんやろ、楽しさは純粋さは伝わったけれど正直物足りない。大きいイベントに向けられたそのエネルギーとプロセスは存分に書かれているけれど、その発散場所である”祭”があまりにも不発すぎた。え、これで終わり?みたいな感じ。もっと詳細な心情や情景を見たかった。

この小説は著者の周りで起こったことの一部を元にしてあるそうで。だからかとてもリアル。この当時の田舎の高校の等身大の姿を見ることができた。とても素朴で、エネルギッシュで、東京を憧れていて。この姿は何かを忘れた現代の大人にとても染みるのでは。

方言がまぁ強い。これこそがこの小説の大きな特徴であって、著者の楽しさを証言している核と僕は思うけれども、読むのが大変。関西弁ならまだしも。

活動家という存在があまり注目されない時代に生まれたからか、正直実態をつかめていない。けれども、こんな僕でも一つわかることは、彼らは自分の信念を貫いているということ。それが正しくて正義かどうかは置いといて、そういう姿勢は真似してもいいのではと思う。周りの意見に同調する奴らよりはるかに人間。

 

 

好み: ★★☆☆☆☆