神田川デイズ 豊島ミホ 著
あらすじ
”ダメダメなあたしたちにも明日は来る。否応なく――コタツでとぐろを巻く童貞達にも、自己マン臭ぷんぷんの映研に反旗を翻す女子たちにも、クレバーに生きたい男子にも、つまんない周りとつまんない自分にうんざりの優等生にも、何かになりたくて何にもなれない彼女にも――それでもあたしたちは生きてゆく。凹み、泣き、ときに笑い、うっかり恋したりしながら。ひたすらかっこ悪く、無類に輝かしい青春小説。”
The First Line
”もしも世界のどこかに一箇所だけ青春のどん詰まりがあるならば、それはこの六畳間に他ならない、と思う。”
大学生ならば一度は感じたことがあるセンチメンタルな感情が詰め込まれた小説。
期待に胸を膨らませた1回生。自分の生き詰まりを感じる2、3回生。社会の入口へと向かう4回生。この小説で出てくる感情すべてを経験したのではないかと思うぐらい手に取るようにそれぞれの学生の思いが伝わってきた。行動することの輝かしさと難しさ。怠けたい思いと行動したい思い。好きだけどやめたい。いろんな葛藤が渦巻く、それが大学生。
大学生という夢のように思われる期間は所詮虚像に過ぎないと僕はこの4年間でわかった。どれだけ行動しようと、どれだけ怠けようと、所詮大学生。どれも正しいし、どれも間違っている。大学生たる態度の正解なんて実はなくて、それぞれが過ごしたその期間がその人にとっての大学生の定義となる。相手を羨んだところで、その人の大学生と自分の大学生は根本的に定義から異なる。
振り返ってみて、高校3年生のころ果たして自分はどんな大学生活思い描いていたんやろか。そしてどれだけ思い通りになったんやろか。おそらく全く予期せぬ方向に行った。後悔はある。でも正しい選択をした。それがすべて。
この小説とは1回生の頃に出会いたかった。また異なる大学生活が目の前に現れていたと思う。
好み: ★★★☆☆☆
銀翼のイカロス 池井戸潤 著
あらすじ
”半沢直樹シリーズ第4弾、今度の相手は巨大権力!新たな的にも倍返し!!頭取命令で経営再建中の帝国航空を任された半沢は、500億円もの債権放棄を求める再生タスクフォースと激突する。政治家との対立、立ちはだかる宿敵、行内の派閥争い――プライドを賭け戦う半沢に勝ち目はあるのか?”
The First Line
”半沢直樹が、営業第二部長の内藤寛に呼び出されたのは、十月の午後五時前のことだった。”
半沢シリーズ第4弾ようやく読んだ。文句なしの大満足。
今回も半沢節は大いに炸裂していて、読んでて思わずにやけてしまうほど。悪者を成敗する正義、という典型的な型の現代社会版として受け入れられるのも当然。今回の敵は今まで以上に巨大な「政治とカネ」。そんな強敵にもまったくひるまない姿は見ていて清々しい。
小説内における設定がどれをとっても絶妙で、悪者も絶妙に権力もって悪いつつも小者を隠す喧嘩弱い感じがたまらない。その対極に存在する切れ者の半沢直樹がまぁ魅せている。
4月から社会人となる身やけれど、半沢直樹のような自分の流儀や正義感を揺るがない、立派な社会人になりたいなと改めて決心する。こんな上司がいたらいいな。間違っても出世とカネしか見れない人になりたくないし、近づけたくないな。
半沢直樹シリーズ続編を期待しています。ドラマも、またやらんかな。
社会人としてのバイブルにします。
好み: ★★★★★★
そして扉が閉ざされた 岡嶋二人 著
あらすじ
”富豪の若き一人娘が不審な事故で死亡して三ヶ月、彼女の遊び仲間だった男女四人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた!なぜ?そもそもあの事故の真相は何だったのか?四人が死にものぐるいで脱出を試みながら推理した意外極まる結末は?極限状況の密室で謎を解明する異色傑作推理長編。”
The First Line
”最後の記憶は、ラブシートの背に掛けられた白いレースのカバーだった。”
岡嶋二人著、『そして扉が閉ざされた』を読みました。
ずっと読んでみたいと気になっていた小説。
正直、あれ?と思った。ずっと読みたいリストに挙げていて、ようやく読んでみて思わずハードル上げすぎたのか。個人的にはあまり面白くなかった。
閉ざされた核シェルター内での極限状態。その中で、事故の謎を追求するにつれて追い詰められる4人。その緊迫感はとても伝わってきた。いろんなことが思いだされながらも結末が読めない。
もっと斬新なトリックが使われているかと思った。推理は論理的で楽しいけれど、ゴールはけっこう単純。だからか拍子抜けした。
この物語、劇で使われたら楽しそう。この緊迫感は実際に感じることでますます面白味が出る気がする。
好み: ★☆☆☆☆☆
東京物語 奥田英朗 著
あらすじ
”1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊……。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。”
The First Line
”すし詰めの満員電車で身をよじったらシェラのパーカーの布地がこすれ、シュルシュルと虫が鳴くような音がした。”
少し昔の匂いふんだんな、懐かしさを漂わすヒューマン小説。
仕事第一の時代なのか、みんなせわしない。現在よりもみんな肉食で、読んでてどこか落ち着かなかった。そして、出てくる登場人物みんな好まない。でも、内容自体は好み。
東京は冷たいとよく言われるけれど、本当にそうなのか。よそから来た人々の集合体が東京の社会であって、みんな温かい心を出せないだけなのでは。その姿がこの小説では顕著に描かれている。冷たく仕事命な外面と、個々のアイデンティティを失うまいともがく内面。とても大切なことを教えてくれる。初心を忘れそうなときは、是非とも読んでもらいたい。
現実の出来事の中で1日に焦点を当てて物語が進んでいるから、小説というよりドキュメンタリーの要素も感じられる。1日をピックアップしているからこそ、すべてがリアルに感じる。
東京という憧れの舞台に丸腰でいどみ、懸命に生きる姿は、これから上京する若者の勇気づけになるのでは。僕自身もその一人。死に物狂いで働きたいとは思わないけれど、こんな新鮮な人生を歩んで、独立し、成長出来たらなと思う。
90年代に生まれた僕は知らない80年代の世界。人間臭くて憧れる。この時代を駆けてみたいな。
好み: ★★★★☆☆
海の見える街 畑野智美 著
あらすじ
”海の見える市立図書館で司書として働く31歳の本田。十年間も片想いだった相手に失恋した七月、一年契約の職員の春香がやってきた。本に興味もなく、周囲とぶつかる彼女に振り回される日々。けれど、海の色と季節の変化とともに彼の日常も変わり始める。注目作家が繊細な筆致で描く、大人のための恋愛小説。”
The First Line
”いつものパンが売り切れていた。”
畑野智美著、『海の見える街』を読みました。
日常のささいな恋愛物語。
せまい世界の中にも恋愛は当然ながら存在していて、情熱的な恋愛ではないけれど、静かでじりじりと胸が締め付けられるような恋愛。誰もが一度は経験したことがあるんちゃうやろか。高校の恋愛と少し似ているかな。
4人を渦巻く感情を4人それぞれの視点から描かれていて、それぞれの想いがとても淡い。そしてとても繊細。「海」と「本」がまた名わき役となって小説全体の雰囲気作っている。とても優しい、そして切ない。
けっして覇気はない。違う世界で生きている人から見たら何が面白くて生きているんやろうと思われるかもしれないけれど、これも美しい人生。
「死んでいるように生きている」そんな感じ。つまんなそうに見えるけれど、そこにこそ小説があると僕は思う。小説が好きやから、死んでいるように生きることも美しいと思える。これは、小説が好きな人の特権やと僕は思っている。
片想い。これほど辛いものはない。でも、とても人間らしい。
好み: ★★★★☆☆
サウスバウンド 奥田英朗 著
あらすじ
〈上〉”小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わっているという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうでないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが……。――2006年本屋大賞2位にランキングした大傑作長編小説!”
〈下〉”元過激派の父は、どうやら国が嫌いらしい。税金など払わない、無理して学校に行く必要なんかないとかよく言っている。そんな父の考えなのか、僕たち家族は東京の家を捨てて、南の島に移住することになってしまった。行き着いた先は沖縄の西表島。案の定、父はここでも大騒動をひき起こして……。――型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、新時代の大傑作ビルドゥングスロマン、完結編!”
The First Line
〈上〉”中野ブロードウェイは上原二郎の通学路だ。”
〈下〉”頭に鉢巻のようなものをした美少女が、樹木の間で手招きしていた。”
奥田英朗著、『サウスバウンド』を読みました。
普段家族を題材とした小説あんま読まんけれど、ずっと気になっていたから読んでみた。あらすじに「傑作」とあると正直あまり面白くないという方程式が自分の中にあったけれど、これは面白かった。
型破りで破天荒な父親に翻弄される家族。子供の視点で描かれているから、大人の堅苦しさもなく、少年らしくうやむやに振り回される感じがとても面白くて、コミカルでさえある。大人のことはよくわからないけれど子どもなりの世界で必死に生きる二郎が、かわいそうながらもどこか諦めな態度が冷静で、過激な父親とは対照的。いい役。
都会では抑えられている過激な家族と南の島では解放されている自由な家族が、手に取るように見えてきて、映画を見ているかのように情景が浮かんできた。文章的にも惹きつけられた。すっと読めるし、大人と子どもの絶妙な心の動きも感じられて、極端やけれど等身大な内容やなと思った。
子供は親に逆らえないというのは何とも言えない不公平で、家族を振り回して自分勝手になる親なんていてはならないという考えは決して変わらないけれど、こんな父親がいたら楽しいやろうな。父親としては嫌いでも、人間としては好きになる。
この小説は、コミカルながらもとても深い。安全な時にしか味方にならない人間。自分の正しさを殺さない大切さ。都会至上主義の対極。当たり前への疑問。など。一郎の生きざまは、尊敬に値する。こんな大人に、少しでもなりたい。
僕は過激派ではありませんと最後に言っておきます。
好み: ★★★★★★
有頂天家族 森見登美彦 著
あらすじ
”「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、タヌキの名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー!”
The First Line
”桓武天皇の御代、万葉の地をあとにして、大勢の人間たちが京都へ乗りこんできた。”
この小説を読み始める前、まさか主人公が狸やとは思っていなかったから、びっくり。ちゃんとあらすじに書いてあるのに。
森見さんらしくコミカルな内容で、京都を舞台とした等身大から少しずらした視点が相変わらず面白かった。狸と天狗と人間の三つ巴。うまいことかみ合っていて、またお互いがお互いを敬遠していて、そこから次々と生まれる歪みがなんとも可愛らしい。
阿保ながらも、狸なりの家族愛に満ち溢れていた。阿保兄弟の絆と母親の愛情。人間では描けない良さがあった。みんな阿保やけれど、立派に面白い。
京都の街を普段歩いていて、これからはふと狸を探してしまいそう。もしかしたら、化けた狸とすでに出会っていたりして。そう思うと、京都がますます面白くなる。強風が吹いたら天狗の仕業と思おう。
好み: ★★★☆☆☆
夜市 恒川光太郎 著
あらすじ
”妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた――。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。”
The First Line
『夜市』”今宵は夜市が開かれる。”
『風の古道』”私が最初にあの古道に足を踏み入れたのは七歳の春だった。”
恒川光太郎著、『夜市』を読みました。
ホラーみたいな暗くて不気味な雰囲気よりは、美しい雰囲気と言う方が当てはまる。
特に山場もなく平坦に物語が進められていて、正直物足りなかった。美しき中にもグロさは欲しかった。読みやすいねんけれども。
身内の死が全体的なテーマかな。それが友情なり愛情なり。忘れ去られるのはつらいこと。
小説を読んでいて度々思うけれど、自分の知らない裏の世界って存在していてほしいし、いずれいってみたいな。そんなこと思えるだけでも日々が少し楽しくなる。これが小説の良い所。
好み: ★★☆☆☆☆
パプリカ 筒井康隆 著
あらすじ
”精神医学研究所に勤める千葉敦子のもうひとつの顔は〈夢探偵〉パプリカ。患者の夢を共時体験し、その無意識へ感情移入することで治療をおこなうというものだ。巨漢の天才・時田浩作と共同で画期的サイコセラピー機器〈DCミニ〉を開発するが、ノーベル賞候補と目されたことで研究所内には深刻な確執が生じた。嫉妬に狂う乾副理事長の陰謀はとどまるところをしらず、やがてDCミニをめぐって壮絶な戦いが始まる!現実と夢が交錯する重層的空間を構築して、人間心理の深奥に迫る禁断の長篇小説。”
The First Line
”時田浩作が理事室に入ってきた。”
筒井康隆著、『パプリカ』を読みました。
今までに読んだことないような、斬新で精密な小説。
アニメが評価されているのを知り、それを観る前に読んでおこうと読んでみた。ここまで緻密でSF空間を文章で作り出せることに感動した。ほんとすごい。すごすぎて、時々ついていけなくなる。設定から舞台から、すべてが今まで読んできた小説とは少し違って、とても新鮮やった。
夢をテーマとしているからか、この小説を読んでいた数日間、特に眠気が強くて何度もうたた寝した。けっして小説が面白くなかったとかそんなんではなくて、読んでいる僕までが夢の世界に引っ張られるような感覚におそわれた。人間の身体の不思議かな。寝た後も、夢をいつも以上に覚えてたり。
「胡蝶の夢」という話が昔からあるように、夢の世界って昔から現実から手の届かないところにあって幻想的である一方で、意外とそっちも現実だったり。こんなん考え出したらきりがないし頭おかしくなりそうやけれど、夢の世界で生きられたらそれはそれで面白そう。僕は、夢の世界が本当の現実って時々思うようにしてる。実際夢のことが現実に来たら怖いけれども。
早速映像でパプリカ観てみます。
好み: ★★★★☆☆
ちょっと今から仕事やめてくる 北川恵海 著
あらすじ
”ブラック企業にこき使われて心身共に衰弱した隆は、無意識に線路に飛び込もうとしたところを「ヤマモト」と名乗る男に助けられた。同級生を自称する彼に心を開き、何かと助けてもらう隆だが、本物の同級生は海外滞在中ということがわかる。なぜ赤の他人をここまで?気になった隆は、彼の名前で個人情報をネット検索するが、出てきたのは、三年前に激務で自殺した男のニュースだった――。スカッとできて最後は泣ける、第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉受賞作。”
The First Line
”六時に起床。”
北川恵海著、『ちょっと今から仕事やめてくる』を読みました。
現代の社会に問いかける小説。
上司からは常に怒鳴られ、他人を蹴落とし這い上がり、昔からの慣例にばかりしばられる企業風土。これはこの小説の中だけの架空のものでは決してなく、むしろこんなブラックと呼ばれる企業の方が多いのかも。社会に出ようとする僕はそんなイメージをもっている。
今働いて、辛い思いをしている人にはぜひとも読んでもらいたい。少しでも逃げ道のきっかけになるはず。これから社会に出る人には、ぜひともこの本のことを覚えておいてもらいたい。社会の純粋さを思い出させてくれるはず。
「ヤマモト」さんの行動は隆を救った。これも現実に有り得ることで、都会も捨てたもんやない。東京の人は冷たいとよく言われるけれど、その東京人も多くは地方出身者で、冷たいのは社会全体を取り巻く群れ意識故の空気に過ぎないと僕は思っている。人間、生きているだけでなんとかなる。誰かは絶対に助けてくれる。そのことを、この小説から強くメッセージとして受けた。
おもんなかったら仕事なんてやめてしまえばいい。自分の人生は自分のもの。でも、責任はついてくると思うけれどね。
好み: ★★★★☆☆